小説 川崎サイト



閃光

川崎ゆきお



 夏の終わりを告げるような落雷が響く。
「明日からクールダウンだな」
「涼しくなるのですね」
「頭の中がな」
「それはすっきりしていいですねえ」
「すっきりかね」
「爽やかで」
「困るなあ」
「過ごしやすくなりますよ」
「だから困る」
「はて?」
「つまり、頭が正常営業となる」
「だから、いいことじゃないですか」
「冷静になる」
「それも、いいことでしょ」
「すると、物事がしっかり見えてしまう」
「だから、過ごしやすくなり、仕事も捗りますよ」
「仕事以前の問題点が見えてしまう」
「まあ、反省も必要でしょう」
「反省の材料さえない場合、それ以前の問題まで掘り下げないといけない」
「ちょっと、見えなくなりましたが、おっしゃることが」
「このまま暑くて何も考えられん状態が好ましいと言ってるんだ」
「それはまずいんじゃないですか」
「まずい」
「では、何とかしなくては。ちょうど気候もよくなるので、いい考えも浮かぶでしょう」
「それがないから困るんだ」
「かなり深刻なんですね」
「考えたくない問題だ。冷静になれば恐ろしいものと直面することになる。暑さで麻痺しておる状態が有り難い」
「そういう問題はあるんでしょうねえ」
「君にもあるはずだ」
「そうですねえ」
「見ないだけのことでね」
「よく見えません」
「違うなあ。見ようとしていないんだ。そこにスイッチが入らないような流れになっておるんだ。まあ、そのほうが平和かな」
「気になるじゃないですか」
「ほら、見え始めたでしょ」
「そう言えば」
「その先は言いたくないでしょ」
「は、はい」
「いつかは何とかしなくてはいけない問題だ」
「二三ありました」
「そうか。で、どうする」
「蓋をします」
「だろうね。そうしないと先へ進めん」
「はい」
「年を取るとその蓋が緩んでね。外れやすくなるんだよ」
「ボケるんじゃないのですか?」
「そう言うところは鋭くなるんだ」
「はい、覚えておきます」
 稲妻が走り、閃光が闇を照らす夏の終わりだった。
 
   了
 
 
 



          2007年8月23日
 

 

 

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