小説 川崎サイト

 

葉法師


「葉法師」
「はい」
「何だそれは」
「一寸法師がお椀の舟に乗っているようなものです」
「では木の葉に法師が乗っておるのか」
「桜の葉がいいようです」
「どうしてだ」
「桜餅もありますので」
「うむ」
「葉法師が出るのは桜の葉が紅葉する頃。そして落ちるとき、法師が乗ります。法師の乗った葉は落ちないで水平にそのまま飛びます。葉の舟というより、飛行機でしょ。動力がないので、グライダー」
「どの程度飛ぶ」
「紙飛行機よりも飛びます。法師が舵を取りますから」
「魔法の絨毯のようだな」
「あれも飛びますね。それよりもかなり小さい。だからお椀と一寸法師の比率に近いです、葉法師は」
「それが現れるのを、君は待っているのか」
「紅葉の季節には飛びません。その前に枯れて散る桜の葉があります。早い目に落ちるのです。他の葉はまだ緑のまま」
「それが現れる時期が、今だと」
「そうです」
「この桜の木か」
「葉法師が乗りそうなので」
「ほう」
「あの葉をご覧下さい。一つだけ黄色いでしょ。あそこにそろそろ乗る頃です」
「柿の葉では駄目か」
「重いです」
「柿の葉寿司は好きだがなあ」
「はい」
「それで、乗るのをずっと待っておるのか」
「そうです。しかし明日かもしれませんし、明後日かもしれません。まだ早いかもしれないのです。しかし、後れを取ってはいけませんから」
「そんなことをして、どうなる」
「はあ」
「だから、葉法師が飛ぶのを見て、なんとする」
「見るだけです」
「もしそんなものがいるのなら、捕獲すればいいじゃないか」
「一寸法師のように針の剣を持っています。手強いです」
「そうか。それを見たか」
「はい、針ではありませんが、爪楊枝のようなのを二本持っていました」
「二刀流か」
「これは櫂です。葉舟、ボートのようなものなので、それで漕いだり、操縦したりするのでしょう」
「見たのか」
「いいえ」
「ではどうして分かる」
「想像です」
「では葉法師は」
「それも想像です」
「あ、そう」
 
   了



2020年9月28日

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