小説 川崎サイト

 

紅葉狩り


 たまの休暇。久しぶりの休暇。下村は二日目に起きてきた。初日は一日寝ていた。休みは三日。明日まだ休める。今日は出掛けて疲れてもいい。明日また休めるのだから。
 しかし、まだ寝たりないのか、グズグズしていた。秋も深まり紅葉シーズン。出掛けるネタに困らない。というより、それしかネタがないのは淋しい限り。それに一人で行くことになる。だから別に行く必要もない。約束はないし、誘いたい人も誘ってくれる人もいない。というよりその趣味の人がいないのだろう。下村もその趣味はない。しかしネタになるので行くだけ。他に出掛けたいような事柄はない。だから、たやすく行ける紅葉狩りに行く。それだけのこと。
 しかし、瞼が重い。
 それで昨日ほどではないが、昼前まで寝てしまった。流石、そこまで寝ると、起きたくなり、起きた。
 さて、どうするか。
 それは決まっている。出掛けるのだ。紅葉狩りに。
 何処へ。
 何処でも紅葉しているだろう。しかし、町内の木の葉っぱを見ても華々しくない。やはり紅葉の名所へ行くべきだ。
 何処の。
 下村の住むエリアからの名所はいくつかある。選択は簡単。その中で一番有名なところに行くことにした。
 本当に行きたいのか。
 たまの休み。次はいつ休めるか分からない。三日間も休める。盆や正月ではなく、ただの秋の日に。
 それで昼を食べに出たのだが、そのまま出掛ければいいものを、食堂だけに入り、帰りに喫茶店で一服して、戻ってきた。
 紅葉狩りに行く場所は決めている。しかし、まだ用意をしていない。リュックを出してこないといけないし、カメラも埃だらけなので、掃除が必要。腹がすいたので、とりあえず食べに出ただけ。
 戻ってきて、カメラを拭き、電源を入れると無言。答えてくれない。バッテリー切れ。分かっていることだ。それですぐに充電する。
 次は靴。軽登山用のいい靴があったはず。ほとんど履いていないので、靴擦れするかもしれない。それで靴は諦め、いつもの履き慣れたビジネスシューズのまま行くことに決める。
 それで充電が終わる頃まで、うたた寝していた。昼ご飯が効いたのだろう。トンカツ定食だった。これがもたれたようだ。
 昼寝から目が覚めるとバッテリーは満タンになっていた。その間、寝ていたことになる。
 時計を見ると、昼過ぎどころか、三時のおやつの頃。窓から外を見ると、日がもう長く伸びている。この時間から出ると夕焼けを見ながらの紅葉狩りになる。悪くはないが、もう出る気が消え始めていた。その火に勢いを付けようにも、炎が見えなくなり、最後に煙が出て鎮火した。
 その日は諦めた。まだ明日がある。今度はしっかりと用意し、朝から出掛けようと決心。
 こんなことに決心がいるのかと、下村は口元を緩めた。
 翌日、休暇の最後の日、下村は朝から出発した。
 しかし、戻って来なかった。
 部屋には戻ったが、仕事先へは戻らなかった。
 
   了
 



 


2020年11月5日

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