小説 川崎サイト

 

鈍力


「色々とありましたが、このあたりで退散したいと思います。これまでお世話になりました」
「引くのかね」
「はい」
「それは残念だ」
「私も無念ですが、これですっきりします」
「すっきりか」
「はい」
「今後はもうお目にかかれないと思いますので、これが今生の別れ」
「大袈裟な、まるで時代劇だな」
「もう二度とそのご尊顔を拝したくありませんので」
「そうか」
 一人が去って行った。
「去りましたか」
「そのようだ」
「よく面倒を見たのになあ。恩を仇で返しおって」
「恩とは思わなかったのでしょ」
「少し揉みすぎたかな」
「誰も居着きません。何とかしませんと」
「何故だろう」
「お分かりのことと」
「また、わしか」
「そうです。あなたです」
「性分でな、しかたがない」
「ものは言いよう。もう少し優しくしてやれば居着いたでしょ。ずっとあなたがガミガミ上からものを言い散らすのを一生聞くなんて、耐えられませんからね」
「教えているだけだ。ただの注意じゃないか」
「次の人が来たときはお手柔らかに」
「ああ」
 次の人は大変鈍い人で、何を言われてもこたえなかったようだ。
 しかし、無能者で、何ともならない。どう教えても忘れてしまうし、身につかない。
「困ったなあ」
「足手まといです。余計に手間取る。いない方が助かる」
「いつもならすぐに去って行くんですがね」
「そうだよ。代わりはいくらでもいる。使い捨てがね」
「何とかしないと迷惑だ」
 その鈍い新人、そのまま居着いた。
 それまでいた人は耐えられなくなり、逃げ出した。
 それで、その鈍い人だけになったので、また人を入れた。数人だ。
 鈍い人が一番上に立った。
 今度は誰も出て行かなかった。
 
   了


 


2020年11月9日

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