小説 川崎サイト

 

不審な動き


 平家物語ではないが、どの政権も永遠に続くものではない。長く続いた藤原時代、徳川時代も、やがて消えていった。ローマ帝国もそうだろう。
 ただ、その時代に生きていた人達は、孫や曾孫まで同じ政権のままだろうというのがあり、生きている間は、ずっとその政権。その先の政権など考えようがなかったのかもしれない。だからその人にとっては曾孫の代まで続くので、生きている間は、その政権のまま。
 ただ、その政権内でも争いがあり、政権はそのままだが、トップが代わる。これは何代も変わり、第何代将軍とかのようにもの凄く多い。そこでの争いはある。
 だから、同じ政権が続いているといっても、それを仕切っている人々が変われば、少し違ってくる。これはその時代、生きていた人達も、少しは変わる。
 そして自分が有利になるような新しい支配者が出ると、運も代わるだろう。
「島内が清原と会っていたとか」
「清原といえば大西派の人間じゃないか」
「そうです。島内は敵に内通しているのでは」
「島内と清原は竹馬の友。それだけだろう。それに清原など大西派の雑魚だ」
「島内も、わが派では雑魚ですね」
「そうだな。だから雑魚同士が会っても、別に影響はない」
「念のため、釘を刺しておきましょうか」
「そうだな」
「頑丈な土手も蟻の穴で崩れるとか」
「島内は蟻か」
「島内は雑魚ですが、顔が広い」
 その後、島内は清原の紹介で、雑魚ではない大物と会った。
「これは駄目でしょ」
「黒田と会ったようだな」
「敵の中枢にいる人物です」
「説明しなくても分かっておる。これは釘の刺し方が悪かったのかもしれん。直接わしが会ってみよう。島内に」
「それがよろしいかと」
 島内は自分が属する派閥の長と会った。
「最近、どうじゃな」
「はい、元気です」
「あまり元気を出さぬ方がいいぞ」
「はい、承知しました」
 これが釘のようだが、島内はそれに気付かない。鈍いのだ。だから敵側の人物と平気で会ったりしている。
 そして島内は誘われるまま、寝返った。
 だが、それだけのことで、何の影響も起こらなかった。
 やはり雑魚のためだろう。
 
   了
 

 


2020年11月23日

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