小説 川崎サイト

 

見方


「何が良いのか、分からなくなりました」
「ほう」
「良いと思っていたものがそうではなかったりします」
「じゃ、見方が悪かったのでは」
「見方ですか」
「良いものか悪いものかの判断力ですよ。その基準が悪いのでは」
「基準ですか」
「そうです。そのものではなく、判断基準で良くもなれば悪くもなる」
「悪いというわけではありませんが、今一つでした。もっと良いもののはずなのですが、それにも達していない」
「まあ、よくあることですよ。それに基準も変わりますから。いつ決めた基準かによってもね。状況が変われば、違ってきますから」
「そうですねえ。意外とつまらないと思っていたものが良かったりします」
「意外とでしょ」
「そうです」
「思っていたよりも良かった。それでしょ」
「はい」
「だから、基準なんです」
「よく分かりませんが、それで何が良いのかが分からなくなりました」
「じゃ、基準を変えればいいのです」
「どのように」
「良いものという基準を作らないことでしょ」
「じゃ、動きようがありませんが」
「何でもいいのでは」
「何でもといっても、やはり基準が」
「基準を表に出さないことです」
「はあ」
「前面に出し、基準がリードするスタイルがいけないとは言いませんが、それが問題なのかもしれませんよ」
「しかし、最近は良いものと決めていたものよりも、一寸違ったものでも良いかと思うようになりました」
「基準が変わったのでしょ」
「そうなんでしょうねえ」
「だから、基準は変わるのです。感覚が変わるようにね」
「そうですねえ。良いものでも飽きてきたりしますから」
「私なんて、そのあたりは適当ですよ。基準は一応あるのですが、あくまでも目安です」
「それで、先生にとり、良いものとは何でしょうか」
「それぞれに良さがある。それだけです」
「じゃ、全部良いってことなんですね」
「そうです。だから基準など作る必要は実はないのです」
「はい、見方を変えてみます」
「まあ、適当に」
「はい」
 
   了

 


2021年1月23日

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