小説 川崎サイト

 

優秀な人


 あまり優れていないものにも、それなりの良さがある。優秀ではないので、良いことがあるのかということだが、優れていないことが良さになる。だから、無理はしないし、できない。ある範囲内のこと、特定のことだけなら、より優れたものと同じようにできる。実際にはより優れているものの方がそれでもまだ優れているので、同じとは言えないが。
 だが、ギリギリだが何とかなるという感じも悪くはない。
 難しいことはできないが、優しいことならできる。それで優しいことばかりをする。それを越えると無理が出てくるため、しない方がいい。
 そして優しいことに関しては、かなり詳しくなる。優れたものよりも、よく知っていたりする。そればかりやっているためだ。
 その優しさに関してだけなら、優秀と言ってもいい。
 芝垣はそれに気付いた。それならプレッシャーがかからないので、気楽にできる。やっていることは誰にでもできる簡単な事。優秀な人なら見向きもしないようなこと。優秀な人は難しいことに興味がいき、そちらへ向かっている。優秀ではない人は、そこに隙を見付ける。優秀ではないから見えてくるのだろう。そこでしか力を発揮できないのだから、当然。
 その芝垣がいつの間にか地位を得た。失敗が少ないため。これも優しいことしかしてこなかったお陰だ。レベルは低いが抜群の安定感がある。芝垣に任せておけば、ある程度のことはやる。それ以上は無理だが、ある程度でかまわないのなら、それで十分。一応やってみました程度で。
 芝垣のレベルは非常に低い。しかし全体的なレベルは高い。一つ一つのレベルは低いが、満遍なくこなす。だから隙がない。
 よく考えると、誰にでもできることで、芝垣が特に優れているわけではない。
 だが、芝垣のやり方が優しすぎるためか、分かりやすい。それが信頼に繋がった。
「芝垣君。ぼんやりしていないで、仕事をしなさい」
 芝垣は仕事中、居眠りをしていたようだ。深夜まで趣味をやっていて、夜更かしになったのだ。
 そして、地位が上がる夢を見ていた。
「ああ、そうならないかなあ」
「何がかね」
「いえ、いいんです」
「まあ、仕事中、居眠りをしても様になるのは君ぐらいなものだ。しかし、寝ちゃ駄目だ」
「はい、起きます」
「よし」
 
   了

 



2021年2月15日

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