小説 川崎サイト

 

通り過ぎたもの


 あることのついでに、三嶋は思い出したことがある。調べ物とは関係しないが、それが気になった。そんなことがあったのかと。
 その路線へは進まなかったのはそれなりのわけがあるはず。良いものなら進んでいる。しかし、こんな良いものを何故今まで無視してきたのかと思うほど優れていた。
 だから、それほど優れていないので、その路線は消え、別のものに取って代わられたのだが、その先、その先へと進むに従い、どうも思わしくない。それでさらに先へと進むのだが、ますます苦しくなる。
 以前、見捨てたものが良かったりすることがよくある。そのときは気付かなかいが色々とやっているうちに浮かび上がる。しかし、それは偶然で、探していたわけではない。それに過去のものなので、それは終わったもの。そこに良いものがあるとは思えないが、惜しいものがいくらかあることは分かっていた。だが、前へ進みたいので、振り返ることはあまりしなかった。
 あまりしないということは、まったくしないということではない。今回はあまりしないが、たまにする。だが、探し物のついでに思い出したためか、これはやはり良い偶然だ。
 三嶋が改めて見いだし、見直したものではなく、偶然。
 その頃、色々なものが多数入ってきた。その中の一つ。そのため、目立たなかったのかもしれない。
 それほど古いものではなく、最近に近い。古すぎると用をなさないが、結構新しい。
 これが実はメインだったのかもしれない。また、メインになるはずのものだったはず。しかし、何らかの理由で、パスしたようだ。
 三嶋にはその理由は分かっている。少し欠点がある。理想的とは言えない。だが、いま考えると、その程度のことなら許せる。その後、色々とやってきて、色々な欠点を見続けたためだろう。
 要するに経験を得るに従い、目が肥えるというよりも、解釈の仕方、受け止め方が変わってくる。
 三嶋は掘り出し物を見付けたように喜んだ。しかし、それがいけない。期待してしまうため。
 だが、色々やってきた中で、これが理想的ではないかということを見いだした。それまでは見えていなかったのだ。
 古い物を捨てるのはいいが、捨て去らないで、いつでも引っ張り出せる程度にしておいた方がいい。三嶋が捨て去らなかったのは、まだ何かあり、可能性があると考えたからだろう。
 三嶋が見いだしたのは、一度通り過ぎたものの中にあった。
 そんなこともたまにある。
 
   了

 
 


2021年2月22日

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