小説 川崎サイト

 

小さな夢


 山内は小さな夢をいくつも懐いている。大きな夢を細かく分割して、夢の数を増やしているわけではない。夢があるだけいい。見る夢もない人もいるのだから。それは夢を敢えて作らないとか、夢として捉えていないとかもある。普通のこととして、普通にやっているだけ。
 山内が懐いている夢は実現できそうなものが多い。しかし本人次第なので、その気にならないと出来ない。敢えて夢といわなくてもいいほどのことだが、夢といった方がいい感じがするのだろう。だからすぐにでもできそう夢をいくつも持っている。
 それらはただの希望だったりする。だが叶えることが出来そうなことが多いので、やはり夢らしくない。
 叶わないものほど夢は深い。そして大きすぎたりする。夢は見ているだけでもかまわない。思っているだけでも。それは夢のような話というところの夢。これが本来の夢かもしれない。実現不可能な目標なら、それは夢。しかし、本人は夢とは思っていないかもしれない。
 山内の夢は小さすぎるので、夢とは呼べないが、それを夢ランクに入れている。しかも無数にある。他の人から見ると、それは夢ではないだろう。夢手帳ではなくスケジュール帳に近い。
 だが山内はそれらを手帳には書かないし、何処にも書いていない。夢なのだから、雲の上にあるようなもの。俗っぽくしたくないのだろうが、極めて俗っぽい目標も多い。だからこそ実現できる夢としてある。
 それらの夢は人には語らない。しかし、語ったとしても、相手はそれが夢の話だとは思わないだろう。
 簡単に果たせることなのだが、山内にとっては難しい目標や目的。だから夢に近い。
 そのかわり多くの夢を見ることが出来る。一つ一つの夢が小さいためだ。数だけ多い。
 その数を合わせれば結構大きな夢になりそうだが、中味が夢としてふさわしくないので、小さな夢が並んでいるだけ。
 夢のような出来事は滅多にないが、たまにあるかもしれない。何かの偶然で。また偶然でしか果たせない夢もある。
 だが、山内の夢は誰でも果たせそうなことばかり。ただ山内にとっては難しかったり、先送りにすることが多い。
 いずれにしても夢の大小ではなく、そういうものを心の何処かに持っていることが大事なのだろう。
 
   了
 
 
 


2021年3月2日

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