小説 川崎サイト

 

更新とライター


 島田は人と会うため、外に出た。待ち合わせ場所というより打ち合わせ場所は電車に乗らないと行けない。そのため、まずは駅まで歩くのだが、少し遠い。バスに乗れば早いのだが、バス待ち時間で駅まで着いてしまいそうだし、それはしたくない。それは別の理由から。
 仕事は更新。これは月に一度ある。もう何年も続いているのだが、いちいち更新しないといけない。一ヶ月単位の契約のためだ。別に契約書があるわけではなく、次もよろしくお願いしますと言われれれば続けられる。これが切れると、生活がしんどくなる。
 それで毎月ヒヤヒヤしながら打ち合わせをするのだが、打ち合わせにならない場合もある。つまり、これで終わり、という話になる可能性もある。
 そんな更新をしなくても、何年もやってきたのだから、必要がないように思われるが、そうはいかないようだ。
 駅に向かうとき、ライターを忘れてきたことに気付いた。煙草の箱だけポケットに入れたようだ。ライターも一緒に掴んだはずなのだが、違っていた。
 ライター。
 近くでは何処だろう。売っている場所。
 コンビニは既に通過しているので、その先にある煙草屋だろう。ただ、閉まっている日も多いので、これは当てにならない。まあ、駅まで出てもライターはない。売店がなくなってから久しい。
 戻るのもいやだし、当てにならない煙草屋に寄るのも今一つ。
 実は、どこにも寄らないで、ストレートに行きたいと思っている。打ち合わせに行くときは、ストレートに駅まで向かっている。まあ、普通はそうだ。
 いつもと違うことをすると、何かが変わるのではないかと島田は思う。ジンクスのようなもの。
 毎月の更新。これが狂うのではないかと感じたりするが、それは半ば冗談で、本気で信じるほど迷信深くはない。
 いつも通りなら、いつも通り更新されるだろう。
 それで煙草屋へ行くのを諦めた。寄ったからといって遅くなるわけではない。十分間に合う。
 しかし、変なことをしたばかりに、変化が起こりそうな気がする。
 駅までの道で島田はいつも煙草を一本吸う。これはいつものこと。だから吸う方が「いつも」を崩さない。しかし、吸うには火がいる。それがない。ライターを買ったり、貸してもらうのは、いつも通りではない。どちらにしても、いつもから逸れていることに気付く。
 煙草を吸わないで行ったので、更新がなくなったとか。煙草屋に寄ったので、更新がなくなったなどは因果関係上にはない。
 それに更新は決まり事のようで、最初からずっと決まっているように思える。
 それで島田は、何とか変化がないようにと考え、思い付いたのは煙草をくわえることだった。
 そして吸っている振りをした。そして軽く吸ったり吐いたりした。
 これが一番いつも通りに近いので。
 そして、駅に着き、あとはいつも通りに打ち合わせ場所に向かった。
 更新はあった。
 
   了

 
 


2021年3月7日

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