小説 川崎サイト

 

龍使い


 長く眠っていた龍が竜ヶ森で目覚めた。竜ヶ森と呼ばれているが、龍など見た者はいない。伝説だ。名が残っているのだから、何か謂れがあったのだろう。
 龍を起こしたのは少女。
 ある日、森に迷い込み、崖から滑り落ちそうになったとき、飛び出していた岩にしがみついた。その岩もずるっと動いた。
 龍の封印だったようで、少女がそれを開けたことになるが、そんな意志などなかった。
 そして森に行く用事もなかった。いつかは行ってみようと思っていたのだが、それがその日。
 何故その気になったのかは分からない。見えない何かの意志かもしれないし、ただの気のせいかも。
 ただ、どうしてそんな気になったのかは分からない。
 この少女、里でも変わった女の子として評判があり、里の巫女などは後継者にしたかった。
 それで可愛がった。少女は幼い頃から特殊な能力があったわけではない。その後もない。ただ、何かありそうな雰囲気だけが漂っていた。
 里巫女は、それで十分だと思っている。自分も神秘的な力などないのだ。
 しかし、古い言い伝えで、龍を得ることで、力を発揮するとされている。獣使いだ。聖獣を操れる。
 そう言う話を里巫女のお婆さんは少女に何度か話していた。古い伝説だが、龍のいる森があると。
 それを少女が思い出し、一度行って見よう、と頭の中にはあった。
 当時、この里を支配していた領主がおり、隣国に攻められていた。
 この里からも兵を出したが、何ともならない。大軍なのだ。これは諦めて支配下に入った方がいいと重臣達は勧めたが、領主は頑固で、戦いを選んだ。
 その敵軍が迫っている。
 領主も竜ヶ森の伝説を知っていた。龍軍だ。これは無敵とされているが、人ではない。
 さて、その少女、竜ヶ森での出来事を里巫女に話し、里巫女は里人に話し、いつの間にか領主の耳にも達してた。
 話は簡単だ。龍軍を呼ぶしかない。それを呼べるのはあの少女だけ。
 竜ヶ森の龍は封印を外してくれた少女に懐いた。この龍が、龍軍の親玉だろう。もの凄い数の龍を従えている。
 領主の頼みを少女は断らなかった。
 そして、前線となっているところに龍軍と供に向かった。
 領主は歓迎した。
 少女は龍軍を領主の前に連れてきた。
 しかし、そんな龍などいない。
 だが、よく見ると、小さな虫が飛び回っていた。羽根蟻のように。
 竜は竜だが、竜の落とし子よりも小さかった。
 領主は、下を向き、黙り込んだ。
 そして、少女にお菓子を持たせ、帰らせた。
 しかし前線での戦いは、意外と劣勢な領主の方が逆に押し返した。
 少女が連れてきた龍軍が活躍したわけではない。
 不思議なことがあるものだと、両軍は意外な結果に驚いた。
 そして、これは噂に聞く竜ヶ森の龍が動いたためだと言われるようになった。
 見事に敵の侵攻を食い止めた領主は、改めてあの少女に褒美を与えた。
 
   了
 
 
 

 


2021年3月19日

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