小説 川崎サイト

 

先入観を曲げず信念を曲げる


 人には先入観がある。それが全てかもしれない。全ての思いや考えなどは先入観から来ている。その先入観がある程度固まると、信念になる。
 そして、人は意識するしないに拘わらず、その信念が底にある。いずれも先入観から生まれたもの。
「僕には常に先入観があります。何事も先入観で見てしまいます」
「それで普通というよりも、それが全てでしょう」
「そのため、先入観が邪魔をして、信念が曲がってしまいそうになります。間違った先入観のためでしょうか。ここは先入観を変えた方がいいのでしょうか」
「さあ、どのポイントを言っているのか、抽象的すぎて、よく分かりませんが、何か困ったことでも」
「はい、困ったことの大半は先入観が邪魔をして」
「それはお困りですなあ。でも何とかなるのでしょ」
「困るといっても、それほど大変なことにはなりませんが、信念を変えるのはどうかと思いまして」
「先入観と信念。分かりにくい話だね」
「信念は僕が常日頃から信じていることです」
「じゃ、その信じていることを変えれば上手くいきますか」
「はい、信念は僕自身や周囲との約束のようなものですから。でも信念をコロコロ変えるのは良くないという先入観があります」
「じゃ、その先入観はそのままにしておいて信念を変えることができるのでは」
「え、混乱しました。何を変えて、何を変えないのですか」
「信念を変えて、先入観はそのままでいいでしょ」
「先入観、つまり思い込みですねえ。それはそのままでいいのですか」
「あなたの先入観は、あなただけのオーダーメイドです。あなたにしか通じないような」
「信念はどうなのです」
「これはコロコロ変えてもいいでしょ」
「そうなんですか。でも先入観に囚われて身動きできないとか」
「それでいいんです。先入観がそう教えてくれているようなものですから」
「でも、堂々巡りで支障が出ます」
「出てもいいのです」
「そうなんですか」
「先入観、思い込みを優先させることです」
「はあ」
「では、信念はどうなります」
「思い込みの結晶、作り事が信念です。これは変えてもいいのです。また出てきますから、目からウロコのように、何枚も落ちます。いくらでも枚数はあります。目のウロコは」
「じゃ、先入観だけで、信念というのは」
「それは幻ですよ」
「はあ」
「一度埋め込まれた先入観は変えられません。押さえ込んでもまだ生きています。だから信念の方を変える方がいいのです。信念は幻なので、コロコロ変わるものですよ。考えが普通に変わるように。しかし先入観は根深い。だからここは変える必要がありません。それに雀百まで変わらない。先入観の中にも色々入っていて、相矛盾するものも先入観の中に含まれているのです。信念なんていうのは小手先の芸ですよ」
「何か良いことを聞いたのか、悪いことを聞いたのか、よく分からなくなりました」
「言葉尻の世界です。そんな尾っぽを追いかけても仕方ないでしょ」
「はい、よく分かりませんでした」
「あ、そう」
 
   了


2021年4月25日

小説 川崎サイト