小説 川崎サイト

 

無精な武将


「反旗を翻したか」
「いえ、まだ裏切ってはおりません」
 佐久間一正が出て来ない。
 登城しないこと、即、裏切り、寝返りとみた。
「それはまだ、早いかと」
「仮病だろう」
 佐久間家は一城を任されていた。城代ではない。元々が佐久間家の領地。独立した存在だったのだが、今は連合し、この一帯を一人の領主が納めるようになった。そうでないと他国からの侵略を受けたとき、佐久間家だけでは何ともならないため。
 これは他の城も同じだ。
 佐久間は城主となったのだが、それまでは城などなかった。館があっただけ。連合してから、城ができた。まるで本城の支城のように。
 佐久間家は家臣になったのだが、忠誠心はない。形だけのこと。他の小領主もそんなもの。
 このあたりの少勢力をまとめ上げたのが赤城家。佐久間家より少しだけ大きい小領主だった人。その才覚があったのだろう。
 隣国が攻めてくる。
 そのためにも、連合し、一つの勢力にまとめ上げたのだから、予想されていたこと。このための連合だった。
 ただ、佐久間家は赤城家の家来になったことが不満。これは形式だけのことと言われていたが、君臣の礼を押しつけられた。
 その代わり、館程度のものが城になった。赤城家のお陰だが、赤城家としては領国を固めるためにも、周辺に城を築き、防御力を高めるのが目的で、佐久間家のためにお城を建ててやったわけではない。
 その佐久間城主佐久間一正が出て来ない。
 これはただの寄り合いなので、定期集会のようなもの。欠席する城主もなくはない。
「それだけで、反旗を翻したとみるのは早計でしょう」
「そうか。心配でな。普段から佐久間は不満そうな顔をしておるし」
「隣国が攻めてきます」
「分かっておる」
「では、作戦会議で呼び出しましょう。これなら、登城するでしょ。もし、しない場合、裏切ったと考えても」
「寝返りか」
「はい」
「誰に」
「だから、隣国にです」
「その証拠はあるのか」
「二、三あります。しかし、隣国との行き来は昔からありますし」
「では、作戦会議を開く。それは必要だしな。ついでに佐久間の出方を見ようじゃないか」
「そう、計らいます」
 佐久間一正はその知らせを受け。これは登城しないとまずいと思った。寄り合いに出なかったのは仮病ではなく、面倒だったためだろう。しかし、作戦会議なら、出ないといけない。
「行かない方がようございます。いや、行ってはなりません」
 佐久間家に長く仕える木の瘤のような顔をした老臣が止めに入る。
「殺されましょう」
「わしが何かしたか」
「疑われております」
「だから、そんなことはない。それを説明しに行く」
「いえ、もう遅うございます」
「では、どうすればいい」
 どうせ、裏切ったと思われているのなら、その通りになってやれと、考えたのかどうかは分からない。老臣の取り越し苦労だろう。
 だが、この老臣が佐久間家を牛耳っていた。
 佐久間一正は作戦会議に出ず、城に閉じ籠もった。本城から見れば籠城だ。
 そのうち、隣国が攻めてきた。
 佐久間一正は、作戦会議に加わらなかったので、どういう戦いをすればいいのか、分からないので、じっとしていた。
 やがて隣国の兵が佐久間領に入ってきた。佐久間城は門を閉ざし、じっとしていた。
 やがて、隣国は佐久間領を素通りし、本城へと向かった。
 佐久間城から兵を出すこともなく、大人しくしていた。
 佐久間一正に考えがあったからではない。動くのが面倒だったためだろう。
 隣国軍は赤城家の本城を落とした。
 結果的には佐久間家は隣国に味方したことになる。邪魔をしなかったので。
 出不精な武将の話だ。
 
   了

 



 
   


2021年5月13日

小説 川崎サイト