小説 川崎サイト

 

梅雨のコスモス


 芝垣は二日ほど留守にした道がある。別に道に留守番がいたり、道守がいるわけではない。ただの道路で、細い車道。周囲は住宅地だが田畑が少しだけ残っている。何も植えていないときはただの野。この野を見るのが好きで、そこを通っているのだが、土日は休んでいる。用がないためだ。
 沿道風景、道沿いの風景は二日ほど通らなかったからといって早々変わるものではない。ほぼ二日前と同じ。ただ、田に水を引き出したので、田植えがもうすぐ始まるだろう。細くてたよりなさげな苗。これは数日経てば、少し大きくなるが、毎日見ておれば、それほど変化はない。
 最近雨が多かったのだが、その日は晴れていた。陽射しが眩しい。だから風景も明るい。アスファルトにできる電柱の影も濃い。だから、二日の差での変化ではなく、天気の変化で、風景が変わっている。梅雨の晴れ間だろう。この時期、晴れている風景を見るのは久しぶりかもしれない。
 二日前、芝垣に異変があった。少し妙なことが起こったのだが、災難ではない。しかし、災難のタネになるかもしれないので、用心していた。
 風景はそのままだが、芝垣自身に変化が来ようとしているのだろうか。そんな予感はするが、そんなときほど、何も起こらないもの。
 そして、畑のそばを通っているとき、見かけないものがある。実際には飽きるほどよく見ていたものなので、驚きはしないが、この時期にあるのだろうかと、少し妙な気がした。
 それはコスモス。漢字で書けば秋櫻。秋の花ではないか、それが梅雨の晴れ間に咲いている。ただし、一輪だけ。
 気候が似ているのかもしれない。それで、間違って咲いたのだろうか。
 そのあたりにコスモス畑がある。栽培しているわけではないが、放置した畑があり、そこで勝手に咲いている。しかも群がって。そのコスモスを見慣れているので、このあたりでコスモスが咲いていても驚きはない。しかも冬の寒い時期まで咲いており、その頃にはもう見飽きている。
 一輪だけ咲いているコスモスのある場所は畑の余地。これもよく見かけるので、最初はすんなりと目に入ったのだが、時期を考えると、これは妙だ。
 ただ、コスモスが咲いたといって大騒ぎになるようなことではない。秋や冬の暖かい日、桜が咲いたりするのだから。
 この妙な狂い咲き、芝垣は二日目に起こった異変のようなものと関連付けてしまった。因果関係はない。花とは関係のない話。
 しかし、その異変も狂い咲きのようなもの。下手に相手にならなければ、すんなりいくだろう。騒がないで。
 しかし、この時期からコスモスは咲くのではないか、秋の花だと芝垣が思い込んでいるだけで。それなら、誰も異変だとは思わないだろう。
 用事が済み、戻ってきて、コスモスについて調べるつもりだったが、もうすっかり忘れていたのか、頭から消えていた。
 
   了
 


2021年6月3日

小説 川崎サイト