小説 川崎サイト

 

蛇神伝説


 田沼崎は昔は川だった。蛇のように歪曲した川で、そのカーブを曲がり切れないほど増水し、決壊した。そこが本流になる。
 そしてまた、元の川筋と合流する。だから川の一部が千切れた。だから長細い池になった。蛇沼とも呼ばれたが、その後、溜池代わりに使うようになってから、田沼、または田沼崎と呼ばれるようになる。
 本流だった頃の船着き場があり、もう使われていないが、その一帯が田沼崎た。本流だった頃は名はない。公認されていない寄場だったためだろう。
 なくなってから田沼崎と付けられた。
 沼の畔にそれらしい杭跡などが残っていたが昔の話。一寸した集落もあり、市場などもある。宿屋もあったとされている。川港なのだ。
 昔は蛇川と言われていただけあり、その蛇がちょん切られたことから、沼のヌシは蛇だと言われている。
 ただの言葉からの連想だろうと思われていたが無関係ではないことが、あとで分かる。
 蛇がいてもおかしくないが、沼の岸辺だろう。沼の底にいるわけではないのだが、ネッシーのようにたまに水面に出ているのを目撃した人もいる。だから、そうなると、それは蛇ではなく、龍神に近い。
 昔は周辺一帯は田畑だったが、かなり減り、新興住宅地になっている。もう溜池の用もなくなったので、そのまま放置されている。だからただの細長い沼。当然中には入れないが、簡単な柵なので入り込める。川があった頃、盛り土をしているため、少し高い。土手、堤防だ。
 近所の釣り人も、その土手からでは竿が届かないので、船着き場のあった田沼崎に集まっている。だから田沼とは沼を指し、田沼崎とは船着き場跡を差している。
 本流からは離れてしまったが、水路がある。田沼に水を供給するためだろう。一緒に魚も流れてきたりする。
 田沼のヌシである龍神が現れるには周りは明るすぎる。そして日向臭い場所。もっとじめっとした森の中の池とか沼でないと、雰囲気が出ない。
 そのため、蛇伝説も、龍神伝説も、すぐに消えてしまった。
 しかし、船着き場のあった田沼崎近くにマンションが建つとき、神社跡が見付かった。村の神社ではない。川港があった頃のものだろう。土地の者が建てたものではない。
 御神体は蛇だという古文書もあるが、これはウミヘビかもしれない。航海安全の神様だろうか。またはよく用いられているドラゴンだろう。
 田沼蛇伝説は、その御神体から来ているようだが、いずれも実体のない話。
 蛇から足が生えた蛇足のような伝説だ。
 
   了

 

 


2021年6月8日

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