小説 川崎サイト

 

寝言


 いい一日と、あまりよくない一日とがある。その差はあまりない。似たようなものなのは、やっていることが同じようなもののため、実害はない。気分の問題だ。
 少しよくない日の次の日はよかったりする。よい日も続かず、またよくない日が来る。その繰り返し。
 それで作田はいい日ばかりにしたいと思い、工夫を凝らすことにした。作為だ。しかし、いい日ばかり続くと躁状態になりすぎ、浮かれすぎ、足元を掬われるのではないかと心配した。
 だから、よくない日を入れる方がいい。ただ、これは仕掛けなくてもやってくる。
 今日は駄目だが、明日がある。そう思える程度のよくない日ならいいのだが、この分では当分よくない日が続くだろうということもある。動かしがたい具体的なものがある場合だろう。気分の問題ではなく。
 それで、作田は一日を分割した。たとえば午前中と午後、そして夜。だが作田は起きるのが遅いので、午前中は短い。それではバランスよく区切れない。それで朝食から昼食までの間とした。そして昼食から夕食までの間。さらに夕食から寝るまでの間。
 これで一日が分散する。いい日でも、午前中だけの場合もあるので、昼からはさほどいい日ではないことになる。逆によくないのは午前中だけの場合、午後からはいい状態。だから悪い日なのかいい日なのかが消えてしまう。なくなるわけではないが。
 これはたまにある。午前中元気だったが、午後からはしんどくなったとか。
 また逆の場合、一日中、よくなかったが夕食後から寝るまでの時間帯は回復して、元気になっていたとかも。
 作田は、友人にそのことを話した。話すようなことではないが、親しい友人なので、冗談半分に聞いてもらえると思った。一寸したアイデアなので。
 しかし、友人は寝言を聞いている程度で、相手にしてくれない。やはり、この発見は自分だけに役立つもので、他人に言っても寝言になる。
 そのあと、友人は頼み事を話し出した。以前にも聞いたことがある。
 友人は熱心に喋り出したが、作田は、寝言を聞いているようなもので、適当に聞き流した。
 
   了

 


2021年6月10日

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