小説 川崎サイト

 

偶然の神秘


 ほんの一寸したこと、それほどだとは思わず軽くやったことが、思わぬ波紋を広げ、連鎖反応を起こすように、動きが活発になる。
 本田は何することなく、日々を過ごしていたのだが、決して何もないわけではなく、それなりに用事はある。世間から見ればよくあることで、大したことではなく、小事だ。その小事だけでも大層に感じていた。
 そこに小事が飛び込んできた。小事を招くようなことをしたのは本田自身だが、これは簡単なことなので、それだけで終わること。後を引かない。影響もない。だから波紋も連鎖反応もないと思っていた。
 小事の殆どはそうで、単発的に起こり単発的に終わる。後々影響がある小事もあるが、一寸した手続きものだろう。それに、そういうのは日常範囲内の些細事と同じで、小事とまでもいかない。
 ところが、その小事の一つから思わぬ展開になる。本来なら小事なので、展開があっても小さいはず。それに全ての小事が発火点になるとは限らない。殆どはそこで終わってしまう。
 今回、発火した。
 のんびりと暮らしていたのだが、忙しくなった。それは、これまでがゆったりしすぎていたためだろう。
 これをすればああなる。ああなると、次はこうなる、などと期待していた頃もあったが、思っているときほど、その発火点からは火は出ないもの。思っても見なかったところから火が出る。
 今回はそうだ。偶然は何一つなく、全ては必然。それなりに因果関係があるので、その偶然も起こる、といわれているが、本田はこれまでその因果の種をかなり蒔いたのだが、発火も発芽もしない。偶然が生まれる種をいくら蒔いても結果が出ない。
 今回用事が増え、呑気に日々を過ごしてられない状態になったのも、偶然かもしれないが、よく考えると、因果関係はある。以前蒔いた種が同時に発芽したようなもの。
 だが、本田はそれでも偶然は何一つなく、全ては必然というのを信じない。何故なら悪因もあるためだ。
 しかし、大きく見ると、本田の世界内。本田が関係する世界内だけで、身の丈以上のスケールにはならないので、波紋が広がり、連鎖反応が起こっても、全ては小事内に収まっている。そこが本田らしい。
 それで本田は少し忙しくなったが、世間から見ると、暇な方。呑気に過ごしているようなもの。
 因果関係のメカニズムはよく分からないが、偶然は時間ものだ。タイミングもの。タイミングが揃えば火が点くこともある。
 本田はそういう不思議な重なり、偶然の神秘のようなものに興味はあるのだが、そういうのは終わってから分かることで、先読みできるようなものではないことだけは分かっている。
 
   了


 


2021年6月17日

小説 川崎サイト