小説 川崎サイト

 

路地ダンジョン


 高橋は不思議な町に入り込み、出てこられなくなる夢を見た。しかし、夢なので、戻ってこられたが、実際には布団の中、行っていないし、だいいちそんな不思議な町など何処にあるのかは知らない。不帰の町、それは伝説だ。ただ、それも作り話。しかし、似たような現象が個人的にあるのかもしれない。
 山奥に入り込み、そこにある小さな町が気に入り、移住する。そういうことのたとえならあり得る。
 高橋は探索者だが、散歩人であり、散策者、言い方は色々あるが、探検家とまではいかない。普通の町を歩いているだけだし、それに山岳や離島などには行かない。だから、大陸の人。しかし日本列島なので、島なので、すぐに海に出てしまう。それでも幅がある。内陸部だ。海など見えないが、標高の高い山頂まで登れば見えるだろう。海から高い峰峰がかすかに見えているように。
 海を渡って、この列島に辿り着いた人達は、きっとその高い峰峰を見ただろう。あそこまで行ってもいいと。
 これも大陸から来た人達にとっては永住になり、見知らぬ島に上陸し、そのまま戻ってこられない、とかになるかもしれない。
 しかし、くどいようだが、高橋はそんなスケールではなく、町内レベル。隣の町内にある狭い路地の中に入り込む程度。浅いと言わねばならないが、帰らずの路地もあるだろう。不帰の路地だ。入ると、二度と出てこられないような。
 だが、それは想像で、そんな雰囲気が路地の入口から中を見ると、思い浮かぶだけで、本気でそう思っているわけではない。
 それでも高橋は路地に足を踏み込んだときのわくわく感が好きで、まだ行ったことのない町へ探検に行く。探しているのは、町のメイン箇所、または町の名所ではなく、路地なのだ。だから、観光目的ではない。
 最高なのは、人跡未踏の路地。それこそ有り得ない。人が作らないと町や家々はできないし、その隙間の路地もできない。だからかなり踏まれている。
 あるとすれば、ある日、突然人が消えた町、となる。その設定で、そこに入り込むのだが、洗濯物を干しているお婆さんとぶつかったりする。これはモンスターだが退治できない。
 生きて戻れぬ路地ダンジョン。しかし、高橋はまだまだ生きている。
 
   了

  


2021年6月25日

小説 川崎サイト