小説 川崎サイト



癒し送り

川崎ゆきお



「癒しの里があるのですが、どうですか?」
「何がどうですかだ?」
「お疲れのようなので行かれてはと思いまして……」
「温泉か?」
「有名な隠れ湯です」
「隠れておらんではないか。有名では」
「隠れ湯とは、まあ名称です」
「里って、今あるのか?」
「それも名称です」
「ただの呼び方か」
「雰囲気が出るでしょ」
「つまり山里にある観光地か」
「静かな盆地です」
「行ってもいいが、戻るのが嫌になりそうだ」
「それも有りです」
「有り?」
「お疲れならそのほうが」
「仕事が山積みだ」
「でも、たまにはリフレッシュも必要かと」
「何かあるのか? いやにすすめるじゃないか」
「お疲れのようですので」
「まあ、誰だって疲れるさ」
「肉体だけではなく精神的にも」
「それで普通だろ」
「無理されているんじゃありませんか?」
「この程度は無理のうちには入らんよ」
「チケット用意しますが」
「そんなに休ませたいのかね」
「会長は自分からは休もうとなさらないので」
「だから、そんなに疲れておらんから、大丈夫だよ」
「空が広く、山は高く。裾野に広がる昔ながらの村です」
「まだ地方へ行けばそんな村里も残っているんだろうねえ」
「自然も豊かです。小川にも魚が泳いでいます。観光地だからこそ景観を保っているのです」
「旅行なら好きな時に、好きな場所へ行くさ」
「そうですか……」
「何か魂胆がありそうだな」
「もう少しゆっくりなされてはどうかと」
「元気で働いておるんだから、いいじゃないか」
「はい、ですが、最近お疲れのようなので」
「え、そう見えるか」
「はい」
「癒しの里か……」
「はい」
「行ってもいいが」
「では、チケットを用意します」
「戻れるだろうね」
「旅行ですから」
「そうあって欲しいね」
 
   了
 
 



          2007年9月23日
 

 

 

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