小説 川崎サイト



社会崩壊

川崎ゆきお



「最近また難しい本、読んでますか?」
「読んどるよ」
「先輩はインテリだから」
「その言葉も僕が教えたんだよね」
「そうですよ、先輩は僕の知的マスターですから」
「そんな言葉は教えたつもりはないが」
「今、どんな本を?」
「崩壊する現代社会についてだ」
「こわそうな本ですねえ」
「うん、怖い怖い」
「社会が崩壊しているのですか?」
「この前まで普通にあったものが崩壊してるんだ」
「へー、何だろう?」
「学級崩壊とかね」
「ありましたねえ、そういうの」
「それと同じように社会のかなりのものが壊れているんだ」
「その本に書かれているんですね」
「そうだ」
「安心しました」
「どうして?」
「本の中の話だから」
「現実の現象を本に書いたんだよ」
「その作者が見たのですか」
「いや、これは理論書だ」
「安心しました」
「またか」
「理論と実際とは違うでしょ」
「まあ、そうだけど、論理的に説明できるんだ」
「ほっとしました」
「何で、安心できるんだ?」
「現実と論理とは違うでしょ」
「まあ、そうだが」
「先輩はその本を信じますか?」
「説得力のある面も多いよ」
「理解できる面ですね」
「そうそう」
「でも理解できない人はどうなんでしょう?」
「理解できないだろうね」
「社会が崩壊しているとは思えないですが」
「昔と比べれば壊れてるんだよ」
「古くなったから壊れたんでしょ」
「そうだな。だから、模索しているんだ。社会を組み立て直すために」
「それは政治がやるんですか?」
「それは書かれていない」
「じゃあ、怖いだけの本ですねえ」
「だから模索中だ」
「話が大きすぎて参加できませんねえ」
「君も読んでみるか?」
「それだけ聞けば十分ですよ」
「あ、そう」
 
   了
 
 



          2007年9月24日
 

 

 

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