小説 川崎サイト

 

箕田勢


 箕田家は大沢家に仕えている。大沢家は出来星大名だが、勢いがある。
 守護の居城に、今は大沢家がいる。守護大名家に仕えていた家来の家来だ。まさに下剋上。
 箕田家はこの守護家に仕えていた。土地の豪族で、守護家よりも古い時代から、そこにいる。大農園主のようなもの。
 守護家が没落し、代わって、一国の主になった大沢家だが、長い年月がかかったため、大沢家当主は、もう老人になっていた。
 その長いい年月の中に、守護家との戦いがあり、守護家の家臣達を味方にしている。周辺から攻めたのだろう。守護家の勢力が減ると、大沢派が増える。その勢いに乗って成り上がった。
 さて、箕田家だが、周囲が大沢派になったため、自分だけが今まで通りの守護家の家臣だと、危ういことになる。四方を敵に回すことになり、守護家にはもうその力はないので、あてにはならない。
 それで、箕田家は出来星大名の大沢家に仕えることになった。成り行きだ。
 戦国の世、大沢家は戦で忙しい。戦いの規模が違ってきており、他国との戦いになっている。
「箕田殿がまた加わりません」
「触れを出したはずだ」
「はい、今回も、来ていません」
「またか、まあいい」
「しかし、兵が足りません。箕田兵が必要です」
「今度来なければ、滅ぼす」
「それは乱暴な」
 箕田家は形の上では大沢の家臣。家来なのだ。しかし、従わないのは、守護家が健在だったところ、大沢家など、誰かの家来にすぎなかった。格が違うのだ。
「説いてきます」
「うむ、そうしてくれ」
 説きに行ったのは、大沢家の家老だが、元々は主家が亡びたので流浪中、大沢に拾われたが、学識もあり、優遇され、重臣と言うより、大沢家当主の側近だ。より近いところにおり、懐刀。
 大沢家の重臣とか、家老と言っても、守護家時代の家来達で、箕田家と同じように土地に根ざした豪族達。これはやはり使いにくいのだ。
 大沢の殿様の懐刀岩田十三郎は小者だけを連れ、領内外れの箕田郷へ乗り込んだ。ここは独立した自治国のようなもので、大沢の色に染まらないのだ。
 しかし、大沢に従わなければ、滅ぼされる。
 箕田城は山間の一番広い目の瘤のようなところにあるが。砦以下の規模だが、館は大きい。
 その周辺に、村々があり、その中で一番大きな村に館がある。
 多くて千。少なく見積もっても五百の兵を集めて、出せる。
 岩田十三郎はそう踏んでいるのだが、箕田は兵を出さない。
 これは謀反と見られても仕方がないが、箕田勢千というのは大きい。これを滅ぼすには労も多い。さらに箕田は山賊を使った例が昔にあり、下手に攻められないとされていた。
 また、守護家との関係がまだあるとされ、今も守護派の人達がかなりいることから、下手につつくと、内乱になる。
 説得上手な岩田十三郎は、時代が変わったこと、下手をすると、他国から攻められ、大沢家も危なくなり、箕田家も呑気なことをしてられないと説いた。
 箕田家当主は、代わったばかりで、まだ若い。すっかり岩田の人柄を気に入り、兵を出すことにした。ただし、出すだけで、戦わないと。
 これは隠居したとは言え、先代の知恵だ。
 参陣してくれるだけで十分と、岩田十三郎は、それで満足した。
「ところで、山賊なのですがね」
「山賊」
「はい、箕田家は山賊を使うと聞きました」
「昔の話でしょ」
「その数は、箕田兵よりも多いとか」
「それなら、箕田は山賊にやれてしまいますよ。それに、山賊など、何処にいるのです」
 岩田は、奥山を指差した。
「山に、それだけの人は住めませんよ」
「そうですねえ」
 岩田十三郎は流浪中、山賊の群れに加わったことがある。一箇所にいるのではなく、散らばっているのだ。しかもかなり遠いところに。
「もし、よろしければ、頭の名を教えて貰えませんか」
 若き当主は、先代の隠居館まで、岩田を連れて行き、父から聞きだした。
 岩田十三郎は、大きな手土産を持って、本拠地に戻った。
 大沢の殿様は、その名を聞き、ふんと鼻を鳴らした。もう何十年も前に亡くなっているのを知っていた。
 そして、他国との戦い。箕田から八百の兵が加わった。そして本陣の後詰めとして、そこにいただけで、やはり戦っていない。
 だが、本陣の後方の箕田の旗印は、敵だけではなく、味方にも効果があったようだ。
 
   了

 


2021年7月26日

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