小説 川崎サイト

 

朝の目覚め


 朝、ふっと目を覚ますと、夏の陽射しの関係からか、室内は水槽のよう。澄んだ水のように部屋の空気に透明感がある。空気は透明なので、それはおかしいが、空気ではなく、壁とか、敷居とか、奥の部屋とか、廊下とかがよく見える。見晴らしがいいというより、見映えする。
 目を開けた瞬間、光が入ってくる。それが少し眩しい。それで、急に明るいものを見たので、そう思ったのだろう。夜中、目を覚ましたときは、その感じはない。暗いため。
 岸和田は身体を見る。虫にはなっていない。従って変身していないが、真っ新な身体を得たような気になる。病んでいたのが治ったわけではない。
 寝るときの暑苦しさが起きたときにはないので、軽くなったためだろう。澄んだ感じだ。
 岸和田はこの夏の朝の目覚めが好きで、毎年経験している。だから知っている。今が丁度いい頃のはず。
 さて、また自分を始めないといけない。昨日の続きだ。寝たところまでは覚えているが、夜中一度起きている。時計を見ただけで、すぐに寝たが、これは勘定に入れない。ほんの数秒なので、何も起こっていないため。
 自分が起動すると、今日、やるべきことなどが頭に来る。特にないが、いつもの続きがある。それは複数ある。
 いずれも暮らし向きのことや、趣味的なことが多い。その中で一番大事なのが仕事だろう。それ以外のことは予定表に付ける必要はない。忘れても、それほど大したことにはならないので。
 また、忘れるようなことは大事なことではない。大事な用件なら覚えている。
 自分はもう起動したので、次はパソコンを起動させる。寝起き早々用事があるわけではない。テレビを付けるようなものだ。
 いつも見ているウェブページなどを巡回。寝るときも見たが、その後、変化している。天気予報などもそうだ。
 部屋が水槽のように思えたが、パソコンのモニターが今度は水槽に見えだし、部屋の水槽化は消える。バトンタッチだ。
 今日もまた自分の続きをやることになるのだが、これは長い話。当然全てを覚えるなど不可能。必要のないものや印象に残らないものは消えていく。しかし、完全に消えたわけではなく、たまに繋がることもある。忘れていたことを思い出すように。
 その思い出したことが、最新の過去になり、本当に起こった過去のことが更新されたりする。
 しかし、一度思い出せても、また忘れたりする。それに対しての用事などがないためだろう。ただの思い出として出てくる程度。
 そして、朝の雑用をやっているうちに、朝の鮮度は低くなり、暑苦しい夏の日中がやってくる。
 そして、一日が終わり、寝て、そして起きてくる。この繰り返しだが、目覚めは毎朝違うようで、新鮮さは変わらない。目を覚ましたときの真新しさもあるが、自分が起動してくる瞬間というのは、いいものだ。
 そして、岸和田は、また自分の続きをやるのだが、それは寝るまでの話。寝てしまえば、頭の中の岸和田は引っ込む。
 
   了

 




2021年8月3日

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