小説 川崎サイト

 

帯に短し襷に長し


 落とし所というのがある。行き過ぎず、戻り過ぎないあたりもポイントの一つだろう。古過ぎず、新し過ぎないとかも。
 綺麗過ぎず、汚過ぎないもある。軟らか過ぎず、硬過ぎないものなど、限りなくある。まあ、程度の問題でもあるし、質の問題でもあるが、暑過ぎず、寒過ぎずもある。春や秋はそうだろう。
「ほほう、竹田君。やっと普通のことが言えるようになりましたね」
「はい、そこに至るまで、苦労しました。丁度いい頃合いがなかなか難しくて」
「でも、それは結局は普通のことですよ。君は大袈裟に結論を導き出したように言ってますが、普通の人はそれを普通にやってますよ。だから、普通のことなのです」
「はい、その普通が難しかったのです」
「でも理解したからといって普通にはなれないのですよ」
「では普通の人は、どうやって理解し、身に付けたのでしょうか」
「理解など、していません。そう言うものだと思っているだけです」
「常識を疑えというのもあるでしょ」
「そんなことをしておれば動けませんよ。動きやすいように常識があるのですから。道路の信号のようなものです」
「でも、間違った常識では」
「間違っているのは君の方かもしれませんよ。だから先ず自分を疑えです」
「ああ、殆どが、そうでした」
「まあ、常識に従っている人は、本当は一番信じていなかったりしますよ。だから、ただの約束事なのでね」
「じゃ、常識家ほど非常識なのですか」
「本音は違うのでしょうねえ。それを出さないだけ。または出せないのです」
「じゃ、どうすればいいのでしょう」
「先ほど、君が導き出したルールでいいでしょ」
「ほどほどというレベルですね」
「そうです。どれも半分は信じ、半分は信じていない。そのレベルでもいいのですよ」
「はい」
「本気だけど、半分は嘘とか」
「ホンキとウソキンですなあ」
「ウソキンですか」
「まあ、理屈の上では何とでもなりますよ」
「はい」
「だから、理屈を捻らないで、すっとやれるようになればいいのです」
「それは難しいです。考えてしまいます。考えなしでやるなんて、僕にはできません」
「だから、無理して、やる必要はないのです」
「帯に短し襷に長しです」
「丁度のものがない例ですね」
「そうです」
「世の中、そんなものですよ。竹田君も私も、それです。でも丁度のものもたまにあるでしょ」
「はい」
「それを見付けるのも興味深いですよ」
「はい、今度は、それを探してみます」
「ご苦労なことで」
「あ、はい」
 
   了



2021年8月5日

小説 川崎サイト