小説 川崎サイト

 

時計の針


 先ほど目が覚めたときに見た時計の針が動いていない。かなり寝たはずなので、寝過ぎたのではないかと高岡は心配していたのだが、長針も短針も同じ位置。では寝ていなかったのか。
 長い夢を見たし、寝た覚えは確実にある。だから、寝過ぎたのだと思ったのだ。
 こういうとき、秒針を見る。秒針は細い、しかし長い。まだ暗いので、ぼんやりとしか見えないが、一応は見える。それが止まっておれば電池切れ。だから、針そのものが動いていないのだ。
 その時計、秒針の音が聞こえないサイレントタイプ。そのため、コツコツと1秒ずつ刻むのではなく、ゆっくりと回っている。
 それを期待して秒針を見るが、ゆっくりではあるが動いている。回っている。
 では、長い夢を見た、あの睡眠時間は何だったのか。
 ということは、最初に目が覚め、そして確認した時計そのものが、夢だったのかもしれない。つまり、目が覚め、時計を確認して、まだ早いと思い、また寝た。という夢を見ていたのだろうか。
 それが夢なら、時計を確認した夢の続きで長い夢を見たことになる。だから、夢の内容が切り替わったことになる。
 時計を確認する夢。その前は当然寝ていたのだが、夢を見ていたかもしれないが、まったく覚えていない。
 しかし、二度寝で見た長い夢は、夢が長かったので、寝ている時間も長かったのではないか。実際には数秒かもしれない。長くても一分以内。それで長針の動きはほぼ同じなので、動いていないように見えたことになる。
 これだろう。と、高岡は納得した。そして、まだ早いので、また寝たのだが、それが二度寝に当たるのか、三度寝に当たるのかは分からないが、少しうとっとした程度で、目が覚めた。
 そして時計を見た。まずは短針を見た。すると、一時間分動いていた。それほど寝た覚えはない。うたた寝程度で、これは五分も経っていないと思っていたのだが、一時間も経過している。
 遅刻だ。
 急いで飛び起き、出勤した。
 そして遅刻の理由を、時計の針がどうのこうのと説明した。
 上司は黙って聞いていたが、最後に、目覚まし時計を買いなさいと言った。
 高岡は目覚まし時計が嫌いだ。そしてそんなものがなくても、決まった時間に起きられる自信がある。
 今朝は少しだけ狂っただけで、本当はかなり早い目に起きていたのだ。
 そういう遅刻は、数年に一度。かなり低い確率。その程度ならいいだろう。これが結論だ。
 
   了


 
 


2021年8月9日

小説 川崎サイト