小説 川崎サイト



恐怖研究家2

川崎ゆきお



「最近怖い話、ありませんか?」
 青田は恐怖研究家に聞く。
「昔は幽霊だったんじゃがな。最近はとんと聞かん」
「出てるんじゃないのですか?」
「出ていても分からんのじゃろ」
「心霊スポットも暇ですか?」
「歌舞伎と同じでな。見る者の目が肥えておらんとよく分からんじゃろ」
「つまり霊に感じる人が減ったということですか?」
「さあ、それはどうじゃか分からんが、幽霊に関しての感度が落ちとる」
「それで、出ていても分からないのですか?」
「意識がないからじゃよ」
「意識?」
「幽霊じゃという意識だ。もっと他に怖いものがあるようじゃな」
「つまり幽霊はもう流行っていないんですね」
「まあそうだ。能を知っとるか?」
「はい」
「分かるか?」
「いいえ」
「あそこに死霊が出てくる」
「死んだ人ですね」
「だから、まあ幽霊だ」
「そうですねえ。出ていても分からないです」
「今は、そんな状況だな」
「先生は見られたことはありますか?」
「何を?」
「幽霊です」
「ない」
「そんなものですか。恐怖研究家なので、毎日幽霊ばかり見ていると思ってました」
「全国の心霊スポットもよく回った」
「それでも遭遇しなかったのですか?」
「ああ」
「やはり霊が見える人と見えない人がいるんでしょうか?」
「いくら頑張っても見ることができん人間がおる。まあ、そっちのほうが一般的で、見える方がどうかしとるんじゃがな」
「でも、以前は目撃例が多かったのでしょ」
「見えん人間も勢いで見えたんじゃよ」
「勢いで?」
「雰囲気の勢いでな」
「幽霊は死んでも恨みとか未練を残し、この世を彷徨っているのでしょ。そういう人、昔より多いと思うので、幽霊人口増えているはずじゃないですか」
「魂魄この世に留どまりての発想を知らぬのじゃ」
「もう幽霊は古いんですねえ」
「皆が本気で信じていた時代ならうじゃうじゃ出ていたはずじゃよ」
「今は、何が恐怖でしょうか?」
「恐怖があちら側にないことが恐怖じゃよ」
「はい、ありがとうございました。一つのローカルな意見として受け止めます」
 
   了
 
 



          2007年9月26日
 

 

 

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