小説 川崎サイト



去りゆく夏

川崎ゆきお



「久しぶりに降るなあ」
「秋の長雨かも」
「そうか、もう秋の雨か」
「季節はもう秋です」
「しのぎやすくなるなあ」
「今年の夏は暑かったからね」
「鍋物の季節じゃな」
「食欲の秋です」
「それがない」
「食欲が?」
「そうじゃ。元気もない」
「季節の変わり目ですから」
「四回もそれがあるのう」
「春から夏、夏から秋の、二度です」
「秋から冬は?」
「もう寒さに慣れて大丈夫です」
「冬から春は?」
「暖かくなるので元気になるようです」
「夏の疲れが出たのかのう。のんびり過ごしたはずじゃが」
「何もしなくても暑くて汗をかき、疲労するようです」
「夏の疲れか」
「はい」
「この雨がそれを流してくれればいいのじゃが、低気圧は体にこたえる」
「ご隠居も大変ですねえ」
「下手に隠居すると、天気の影響をモロに受けるのじゃ」
「外敵は天気だけ、と」
「ま、平和じゃがな」
「羨ましいです」
「君らは天気など気にせんだろ」
「はい」
「忙しくて天気など気にならんか」
「ですが、九月は妙にやる気がなくなる月です。こうした雨に降られると滅入ります」
「それは気持ちか?」
「肉体的にも精神的にも」
「まだ、半袖だな」
「さすがに少し肌寒いです」
「ところで仕事じゃが」
「もう少しかかりますか?」
「隠居仕事なのでな。リキが入らんのじゃ」
「お盆までの約束でしたが」
「分かっておるがな」
「手間のかかる仕事ではないと思いますが」
「気合が入らんのじゃ」
「その気になられたら、ほんの少しだけ急いでください」
「去りゆく夏が恋しいわい」
「では、お大事に」
 
   了
 
 
 

          2007年9月27日
 

 

 

小説 川崎サイト