小説 川崎サイト



試練

川崎ゆきお



「これは一つの試練だ」
「苦しいのでしょうか」
「当然」
「避けて通れませんか?」
「それはできん」
「試練など受けたくありません」
「では、通れんぞ」
「もう少し楽な方法はありませんか」
「それを避けると余計苦しくなるぞ」
「あるのですね」
「ないわけではない」
「それを選択します」
「だから、それでは後が苦しくなる」
「では、この試練を乗り越えれば後は楽になるのですか」
「それは……」
「なるのですか」
「楽なことはこの世にはない」
「じゃ、楽になれない試練など無視してもかまわないじゃないですか。全部苦しいのなら、何をやっても同じことでしょ」
「もう一度言う。この試練を乗り越えれば後は多少ましになるが、この試練を無視すれば、もっと強い苦しみが待っておる」
「そのもっと苦しいことこそ本当の試練では。なにも順番通りやらなくても」
「耐えられないほど苦しい試練となり、達成できぬ」
「つまりレベルが低いと辛いので、ここで軽い試練を受けるわけですね」
「軽くはない」
「どうしても試練が必要ですか?」
「それが試練じゃ」
「試練って、練習のようなものでしょ」
「練習の積み重ねがないと実践は不可能じゃ」
「練習したくないのですが」
「誰もが通る道じゃ」
「どれぐらい残りますか」
「本人次第じゃ」
「辛そうなので辞めます」
「分からん奴じゃのう。辛さに耐えるのが試練で、辛さを体験するのが目的じゃ」
「SMみたいですねえ」
「違う」
「辛さが快楽になるのですね」
「我慢する心じゃ」
「それが気持ちいいんだ」
「立ち去れ!」
「やはりそういう趣味の集まりなんだ」
「苦しんでこそ楽あり」
「楽は諦める代わりに、苦しみたくないです」
「問答無用。立ち去れ」
「はい、そうします。僕には無理だ。楽してもっと楽になる方法を考えます」
「ないない。あればわしだけがこっそりやっとる」
 
   了
 
 

 

          2007年9月28日
 

 

 

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