小説 川崎サイト

 

無手策


 放っておいても何とかなることがある。下手に弄ると、勝手に修復するものでも治らなかったりする。よく分かっていることなら下手ではなく、上手に弄ることもできるが、よく分からない場合は、下手に弄ると丁と出るか半と出るかは分からない。
 誰にも分からないことに関してはそんなものだろう。しかし、いつの間にか治っていたりする。これは勝手に修復されるようなものだが、当然無理な場合もある。これは諦めるしかない。
 梅原は仕事が上手くいかないので、そんなことを考えた。実際には手を打つのが邪魔臭くなったのだろう。
 それで、いい加減なことを適当にやっているうちに、上手くいくようになった。何をどう弄ったのかは分からない。少なくても、よくなるような弄り方ではなく、放置に近い。
 これは状況の方が勝手に変わっていたのだろう。梅原の努力の結果ではない。何も仕掛けていないのだから。
 要するに梅原は大人しくしていた。殆ど諦めたようなもので、その件に関しては静かにしていた。これが効いたのかもしれない。余計なことをやり、余計な動きを加えておれば、勝手に治っていなかったかもしれない。
 しかし、これは用件にもよるだろう。事柄にもよる。
 今回は何もしないことがいい結果を招いたが、それを教訓にするとまずい。運がよかっただけで、毎回上手くいくとは限らない。
 しかし、迷っているときや、よく分からない場合は、手を出さない方がいいのかもしれない。
 運というのはなく、全てに因果関係があるとされているが、人の世界だけではなく、自然がそこに加わると、これは運が左右する。しかし、人間の身体も自然現象の一つなので、それが出るかもしれない。
「梅原君、君のは怠け者の理論だ」
「そうかなあ」
「結局、何もせず静観していたんだろ。今回は無事クリアしたけど、運任せじゃないか」
「うん」
「だから、理論じゃない。考え方の理論であっても、実際の理論じゃない」
「別に理論だといってないけど」
「そういう無策の理論なんだ。無手策なんだ」
「別に狙ってないけど」
「しかし、今回、君がクリアできたのは山田君の助け船があったためなんだよ。君の力じゃない」
「そうだったの」
「だが、不思議だ。山田がどうして助けたんだろうなあ」
「さあ、貸し借りはない」
「いや、今回借りができたことになるから、何処かで返さないとね」
「余計なことを聞いてしまった」
「まあ、君が哀れだったんだろう。山田は余裕があるから、施しのようなものかも」
「因果関係のない運の方が神秘的でよかったのに」
「まあ、今回は運がよかったのかもしれんなあ。山田がまさか君を助けるとは誰にも分からないことだったのでね」
「何かで運を呼んだのかな」
「呼ばない」
「ああ」
 
   了



2021年9月7日

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