小説 川崎サイト

 

寒暖差


「暑いようでもあり、寒いようでもある日ですねえ」
「そうなんですか」
「暑いと思うと暑い。寒いと思うと寒い」
「ほう」
「どうなんでしょう」
「気のせいでしょ」
「しかし、実際に暑くなったり、寒くなったりします」
「じゃ、思わなければ」
「何ともありません」
「意識するからでしょうねえ」
「ああ、そうですね。別のことを思っているときは、気付かなかったりします」
「そうでしょ」
「しかし、何かに熱中しているときでも、寒く感じたり、暑く感じたりしますよ」
「じゃ、本当に気温が変化したのでしょ」
「室内です。寒暖計は同じ温度のままでした」
「体内時計があるように、体内寒暖計のようなものがあるのでしょう。まあ、気温だけはなく、湿度とか気圧とかも測る体内センサーがあるような気がしますよ。そんな内側ではなく、皮膚にあったりしそうですが」
「そこまで考えが及びませんでした。しかし、気のせいではない場合もありますしね。そして本当に気温が変化していたりもしますから」
「でも、別段、問題がそれで起こるわけじゃないでしょ」
「はい。しかし、気になりだすと、どんどん気になりだし、そればかり考えたり、思ったりするのです。全神経、そこで使い果たしたりして」
「疲れますか」
「それほどではありませんが」
「まあ、冷や汗が出たりしますよね。ドキッとしたような瞬間」
「それはありません」
「そうなんですか」
「汗は滅多にかきません」
「暑いときでも」
「はい」
「あなた、爬虫類ですか」
「違います。人です。哺乳類です」
「でも汗は出ない」
「もの凄く運動したときは出ますよ。でも暑い程度では出ない」
「じゃ、汗かきじゃないという程度ですね。汗は一応出る。体温調節でね」
「はい」
「今はどうですか。暑くなったり寒くなったりしますか」
「気付きません。こうして話をしていると」
「じゃ、考えすぎでしょ」
「それほど考えてはいないのですがね」
「あ、そう」
「一寸寒暖差に敏感なだけかもしれません」
「暑いと寒いは極端すぎますよ」
「ああ、一寸大袈裟に言っただけです」
「じゃ、今日はこれぐらいにしておきましょうか」
「はい、有り難うございました」
「お大事に」
 
   了

 


2021年9月15日

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