小説 川崎サイト

 

調子の良い日

川崎ゆきお



「調子がいい日はありますか」
「あるねえ」
 ワーキングマネージャーの質問に森田が答える。
「では、いつも調子が悪いわけではないのですね」
「調子は悪くない」
「不調だと聞きましたが?」
「たまに調子がいい日もあるだけだ」
「上司はその日を基準に考えているのですよ」
「それは、たまだ」
「そのたまを標準にしてもらいたいようですよ」
「仕事に支障は出ていないはずだけど」
「森田さんの力をもっと引き出したいようです」
「部長がそう言っているのか」
「上司なら、それを望むでしょう。それに森田さんにも益する話です」
「そこまでうちは管理するようになったのか」
「管理職の人たちですからね」
「いや、君だよ」
「私は相談相手ですよ」
「君と話していることが、そもそも…」
「何ですか?」
「私に問題があることの証しだ。私の仕事ぶりを何とかしろと部長が言ってるんだ。何で直接言わないんだ」
「そうじゃないです森田さん。部長は森田さんの能力を買っているのですよ。すごく元気な日があり、仕事ぶりも素晴らしいとか。その状態を維持できないのは、原因があるかもしれない。そうおっしゃっています」
「そうおっしゃられてもねえ」
「森田さんのほうが部長より年上ですね。それが原因でしょうか?」
「気にしとらんよ。部長のほうが力は上だ。素直に認めておる」
「本当ですか?」
「君もマネージャーだろ。問い詰めるような聞き方はやめなさい」
「あ、失礼しました。急ぎ過ぎました」
「急いでもゆっくりでも答えは同じだよ。部長との関係ではない」
「ではたまに調子のいい日があるのはどうしてでしょう」
「あるねえ、確かに」
「ですから、能力があるのに出し惜しみしているような」
「君も露骨だねえ」
「失礼しました。では理由は何でしょう」
「誰だってそんな日はあるさ」
 森田が調子のいい日は月に一度で、給料日と合致していた。
 実に現金な理由である。
 
   了


2007年09月30日

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