小説 川崎サイト

 

コスモスの妖怪


 彼岸花が咲き出す頃、コスモスも咲き出す。そして彼岸花はすぐに枯れていくのだが、コスモスはかなり長く咲いている。枝が多く、蕾も多いためだろう。花火ではないが、彼岸花は一発だけだが大輪。
 昼の長さと夜の長さが逆転し始める頃、妖怪博士の担当編集者がいつものように現れた。
「花の妖怪など如何でしょう」
「それは妖精になる」
「ああ、花の妖精」
「綺麗なので、妖怪とは違うじゃろ」
「見てくれがいいですからね」
「誰も見たものはおらんが、感じた人間はおるようじゃ」
「いるような雰囲気ですね」
「しかし、幻覚だったとしても、イメージがない。姿を見たわけじゃない。幻でもいいから、形が見えれば何とかなるのだが、いるような雰囲気がした程度が限界らしい」
「でも絵とかにあるでしょ」
「まあ、おそらく、こんな形をしておると想像で書いたものじゃ。原型がないのにな」
「妖怪は見えますよね。形があると」
「先に想像画があるのかもしれん。または動物などを組み合わせたりとかな。想像の中のものじゃが、それが出たりする。現実に」
「そちらの方が怖いですねえ」
「まあ、妖怪の想像画を見なくても、適当な動物や、器具とか、道具とか、植物とか、色々なものに手足を付ければいいのじゃ。茶碗とか、箸とかにもな」
「茶碗は、股が痛そうですし。箸は最初から二本足のような感じなので、足はいらないでしょ。腕だけで」
「そうじゃな。動きにくい妖怪もある」
「それで、花の妖怪なのですが」
「花びらが顔のように見える。これでいいじゃろ」
「いえ、花びらは別のものに見えたりします。顔じゃなく」
「向日葵など、どうじゃ」
「よく分かりません」
「花の妖怪は、花ではなく、そこから湧き出したものかもしれんなあ。蝶々は外から来るが、妖精は内から来る」
「はい」
「彼岸花に来る妖精と、コスモスに来る妖精は違っていたりしそうじゃ。当然夏の朝顔、昼顔、夕顔に来る妖精もな。これは顔じゃないか」
「自然界に近いですねえ」
「まあ、妖怪の中には人工物や都市型もおる。これは何でもありじゃ」
「はい」
「形はないが、コスモスの妖怪がおる」
「妖精ではなく」
「姿がないので、分類できん」
「どんな妖怪ですか」
「コスモスが咲いておる」
「はい」
「ある人が通るなり近付くと、花びらがその人の方を向く」
「あ、はい」
「複数咲いているときは、全部ではないが、向こうを向いていたのも、その人を向く」
「うーん」
「どうじゃ」
「絵になりません」
「そのものの形が妖怪なのではない。その仕草が妖しいのじゃ」
「風でしょ」
「そうかもしれんなあ」
「花の妖怪で、もっとおどろおどろしたものを考えて下さい」
「それが今月のお題か」
「はい」
「花は花。あまり弄くりたくない」
「じゃ、仕方がないので、コスモスがこちらを向くというメルヘンにしますか」
「たまには、そういうのもいいじゃろ」
「はい」
 
   了


 


2021年9月27日

小説 川崎サイト