小説 川崎サイト

 

あれから

川崎ゆきお



 あれから何年も経過した。
「あれから何年も経過しましたねえ」
「あれから…か」
「日が経つのは早い」
「思い返すとそんな感じですねえ」
「あれからにもいろいろある」
「あのことだけではないですからねえ」
「しかし君とはあれ以来だなあ」
「お元気で何よりです」
「そうでもないが、こうして町中で会えるのだから達者なほうだろ」
「そうですねえ」
「その後どうだね?」
「いろいろありました」
「お互いにね」
「あのこと以外にもいろいろありましたから」
「それだよ。別件でもいろいろあるからねえ」
「増えますねえ」
「事欠かない」
「でも、こうして会えるのは珍しいです」
「暇になってね、昔の人間と会いたくなったんだ。呼び出しをかけたが、反応してくれたのは君だけだ」
「僕もちょうど暇でしたから」
「そうだね、暇じゃないと成立しないね。別に用事はないんだから」
「本当ですか?」
「本当だ」
「頼み事でもあるのかと」
「ないない。純粋に会いたいと思ったんだ。用事はそれだけだ」
「今、何をされているのですか?」
「何って?」
「お仕事です」
「あの時の会社は辞めたよ」
「もったいない」
「別に、あれがあって辞めたわけじゃないよ。で、君は?」
「僕ですか?」
「電話番号は昔のままだったね」
「引っ越しましたが、同じ市内です」
「仕事は…」
「まあ」
「あのころは学生だった?」
「何度か就職しましたが、今は…」
「分かった。深く聞かないよ」
「まあ、暇は暇です」
「悪い条件がそろったね」
「そうですか?」
「僕も暇だし」
「まさか…」
「どう?」
「いや、それは…」
「また、やらない?」
「それって、すごい用事ですよ」
「そうだな」
「そうですよ」
 
   了


2007年10月01日

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