小説 川崎サイト

 

筮竹の戦い


「まだ落ちぬのか」
「はい」
「援軍を送ったはずじゃぞ」
「十分すぎる兵力は最初からあります」
「敵は五百はいるか」
「切っていますが、敵城の士気が高か過ぎます。籠城はもはや限界かと思われますが、一向に勢いは落ちません。それで、なかなか突っ込めないのです」
「高島はどうした」
「高島?」
「軍師として雇っていたはず」
「あの者は占い師です」
「高島に行かせろ」
「同じです。占いで決められても何ともなりません」
「いや、高島はかなり理屈を申しておった、理にかなっておったので、雇ったのだ」
「高島が行っても従う者がおりません」
「これを渡そう」
 全権委任。高島の命令は総大将の殿様の命令と同じというもの。ただ、いくら主君の命令でも、聞きたくないものは聞かない。
 高島は良い年になっている。戦場を駆け回るには年が行きすぎた。ただ、軍師なので座っていることが多いが、敵城視察で野山を移動する。それが面倒になる年。
「死兵ですな」
 この戦いを任されている重臣に高島は説明する。この重臣、元々猛将タイプではなく、地味な人。定石通りの攻めや守りをする人。それだけに主君も安心して攻城戦を任せていたのだ。それに大した要地ではなく、抵抗するので、落としにかかっていただけ。
「死兵とは」
「兵糧も尽き、餓死より戦場で死ぬ気でしょうなあ。これは手を出さない方がいい。大怪我をする。攻め手は余裕があります。楽な戦い。こんなところで、必死になり、怪我でもすれば損でしょ。相手は死に物狂い、そんな相手とは戦わないもの」
 重臣は自分の意見と同じなので、少し安堵した。主君が送ってきた軍師が無理攻めするのが目的だと思っていたからだ。総攻撃はしたくない。
「申される通り。ではどうすればよろしいか」
 高島は、筮竹を混ぜながら、一本抜き出した。
「西を開けなさい」
 城の西は要手で、裏口。当然そこにも兵を配置している。
「逃げたくても、袋の鼠。これでは逃げられんでしょ」
「しかし、手薄なところを作るとまずいのですよ」
「見て見ぬ振りでいいでしょ」
「そして、逃げてきた敵兵をまた城に戻しなさい。一人か二人。そして逃げ道があり、その先に僧侶が建てた小屋があり、そこで炊き出しをやっていると城内の仲間に伝えさせるのです」
「やってみましょう」
 五百弱の籠城兵といっても士分は数十人程度で、あとは近在の百姓や流れ者。城を枕に討ち死にする気はない。選択肢がそれしかないため、死に物狂いで抵抗しているだけ。
 高島の策が当たり、城兵が減りだした。
 敵兵であっても百姓だ。この近在から集められたのだろう。城を奪い、領土にしても、田を耕す者がいなければ困る。
 さらに敵兵は減り、その中には士分もいた。侍だ。最初は新規に召し抱え者とか、身分の低い者が多かったが、敵の重臣クラスも逃げてきた。
 城は戦わずして落ちた。
 戻ってきた高島は、殿様から質問を受けた。筮竹で勝ったのかと。
 高島は、一つ間を置いたのち「そうでごじゃります」と答えた。
 
   了


 


2021年9月30日

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