小説 川崎サイト

 

飛び出し少年

川崎ゆきお


「また会ったね」
 僕は声の主を探した。
「ここだよ、ここ」
 僕は振り返ったり、上を見たり、地面も見た。
「目の前にいるよ」
 語りかけてきたのは絵だった。
 飛び出し注意のパネルだった。人型にくり抜かれた絵の少年が、話しかけてきたのだ。
「さっきから、何度も、ここを通ってるね。何か探し物?」
 そう聞かれると何かを探していたように思う。
「最近、毎晩、ここを通っているね。夜中の一人歩きは危険だよ。探し物があるなら協力するよ」
 僕は飛び出し少年の言うように、何かを探しているに違いない。
 でも、何を探しているのかが思い出せない。

「身体を探しているんだろ?」
 そう言われると、そんな気もする。
「おいらには君は見えるけど、他の人には見えないと思うよ」
 僕は自分の手を見た。
 手は見えた。
 足元を見た。
 足は見えるし靴も見えた。

「君がおいらと話せるってことは、君はもう普通じゃないってことだよ。君はきっと事故に遭ったんだ。そして死んだ。今の君には身体はない。だから探しているんだ。君の探し物は、失った身体だよ」
 この飛び出し少年の絵は、きっと飛び出して事故にあった子供が憑いているのかもしれない。
 僕は交通事故に遭った記憶はない。

「身体を探していないのなら、何を探しているの?」
 確かに何かを探していた。
 今、思い出せないのは、きっと大した用事じゃないのかもしれない。

「ねえ、行っちゃうの? 成仏しないとおいらのようになるよ!」
 僕はやはり死んでいるのだろうか?
「あの世へ行きたいなら、この先の古墳前の祠へ行きな。そこで立ってりゃ、迎えの人が来てくれるからね。おいらは、ここに残って、祟ってやるんだ。でないと気がすまないからね。君はそんな気はないと思うから、さっさとあの世へ旅だったほうがいいよ」
 僕は、古墳前の祠へ行くことにした。

 古墳は公園になっていた。
 そこに何人もの子供が集まっている。
 小さな祠の前に、ホームレスのような老人が立っている。
 祠の扉は開いている。
 その中へ、子供が入って行く。
 集まっている子供達は、その順番を待っているようだ。
 僕は一番後ろに並んだ。
 その祠はあの世に繋がるトンネルかもしれない。
 老人は子供の背中を押している。
 小さな祠に、次々と子供が入って行く。
 やはり、あっちへ繋がっているのだ。

 そして僕の番になった。
 老人は機械的に僕の背中を押した。

 僕は暗いトンネルの中を歩いていた。
 
 僕は探し物のことも忘れ、そして僕自身のことも徐々に忘れていくのを感じた。

  了

2004年10月22日

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