小説 川崎サイト

 

宮脇家の謎


 宮脇は眠くなってきた。晩秋の夕方前で、気候はいい。少し暖かい。
 午前中は曇っており、雨上がりのあと。少し肌寒く、陰気な曇天。このままの一日かと思ったのだが午後からは晴れだし、気温も上がった。
 それで急に眠くなった。早く起きてきたからではなく、一寸した会食があり、そこでこれ以上食べられないほど食べた。さらにとどめはケーキ。これが効いたのだろう。
 それで、事務所に戻る。これは個人オフィスだが、休憩所のようなもの。だから仮眠ができる。狭い部屋なのだが、ソファーがでんとある。
 それなりに長いので、横になれる。足ははみ出るが、丸まればベッドと同じ。それ以上にクッションがいい。肘掛けが枕になる。少しきついし、高すぎるが。
 宮脇は宮脇について考えてみた。以前から思っていたことで、自分自身を知るという啓蒙関係ではない。宮脇家の由来だ。
 字面で分かるように、お宮さんの脇と書くのだが、このお宮は神社らしい。今はない。貴族が建てた神社らしいが、その警備員のようなのが宮脇の先祖であり、そこから始まる。
 それまでは何をしていた人なのかは分からない。宮脇と名乗るようになってからの記録しかないが、それは言い伝え。
 その後、何代か続いたが、神社が潰れたことで、その後のことは分からないが、位の低い武士として続いたようだ。
 分かっているのは四国あたりの大名に仕えていたようで、これが長い。大名と言っても分家。
 本家もそれほど大きくはないが、一応五万石はあったらしい、これは東北地方。この大名も、政権が変わる度に、領地替えになっている。
 宮脇は四国時代には興味はなく、初代の神社が気になる。そこに仕えていた頃。
 貴族が建てた神社だが、その神社は社領を持っている。お寺で言えば、寺領のようなもの。
 言い伝えでは、神社の警備や、社領の運営を担当していたらしいが、それだけではなく、この神社の奥深いところの仕事もしていたようだ。そこが気になる。
 表向きは貴族の氏神を祭る神社、結局は先祖神のようなものだが、その氏神は人ではなく、動物。ここで抽象化されている。曖昧にしている。その方が有り難みが出るのだろう。
 問題はその神社。実際には何かややこしいことをしていたらしい。それに関わってきたのが宮脇家。
 そこで、何をしていたのかは分からないが、神社は潰れたし、その貴族も没落したので、失敗に終わったのだろう。
 うつらうつらと居眠り中、宮脇は、そんな遠いところを見ていた。
 そこで何があったのかが分かったとしても、それでどうなるものでもなく、今が変わるわけでもない。
 江戸時代、宮脇家は下級武士として、四国の小藩に仕えていた。この間、そういう伝説が生まれたのではないかと、宮脇は考えている。
 神社も、貴族も、それに該当するものが歴史的資料にはないためだ。まさか消されたわけではないだろう。最初からないのだから。
 しかし、あって欲しいと宮脇は思っている。
 狭く小さな個人オフィスで、つまらない仕事をしているため、そんな遠いところを見るのだろうか。
 
   了


 


2021年10月29日

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