小説 川崎サイト

 

派閥崩し


 小山は何処かの派閥に入らないといけない。政治家ではなく、ただの会社員。しかし、それなりの政治力が必要。
 別に何処にも所属したくないし、また社内マニュアルにもない。また人事課に行っても、派閥一覧表があるわけではない。それに派閥に入るのは仕事ではない。そんな業務はない。
 それで小山は適当な派閥に入ることにした。小山は新入社員なので、それなりの誘いがある。同期の前田がおり、彼も選ばないといけないので、一緒に相談した。
「二人で派閥を作るのはどうだろう」
「いや、それはできないみたい」
「で、何処がいい」
「何処でもいい」
「しかし、いい派閥に入っているとその後が違うらしいよ。だから大月派がいいんじゃない。最大派閥だよ。上の方は大月派が多いし」
「いや、僕は浦賀さんがいいと思う」と小山。
「浦賀派、あったか、そんなもの」
「先輩に聞いたんだ。ここが一番小さいって」
「選択外だよ」
「もう終わった人なんだけど、そうでもないみたい。みんな無視しているけど、意外と穴なんじゃないかと思うんだ。当たれば大当たり」
「穴狙いか」
「じゃ、一寸情報を集めてくる」
 
 前田は色々と情報を聞き出したらしい。
「どの派閥もね、浦賀さんを悪く言う。もう終わっているって、つまり、浦賀派は会社創設の頃の最初の派閥なんだ。そのあとできた派閥は、浦賀派の欠点をただし、よりよいものにしていったんだって」
「それで、もう終わった人と言われているのか」
「そうなんだ」
「今は大月さんの時代。だからポスト大月派が狙い目なんだ」
 前田の話を聞き、小山ものその気になったが、どちらかというとどうでもいいような話。何処かに入らないといけないので、入るだけ。それで、何故か気になる浦賀派に入った。
 同僚の前田はポスト大月派と思われている下条派に入った。
 そして、しばらく立った頃。派閥の意味が分かった。どの派閥も、何か目的のある同士の集まりではなかった。また各派閥の特徴もなかった。その派閥独自の意見とかも。
「どうなっているんだろ」
「さあ」
「それで僕はまた調べたんだ」
 前田は調べるのが好きなようだ。
「ただのグループ分けのようなもので、出席簿順に十番までが一組とか、その程度らしいだ」
「じゃ、派閥じゃないんだ」
「何だろうねえ、それって、意味が分からない」
「そうなってしまったのは、君が所属している浦賀さんらしい」
「そうなの」
「意味を持たせない派閥作り、それを創立の頃、やったらしい」
「何だろなあ」
「分からん人だ」
 
   了


 


2021年10月30日

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