小説 川崎サイト

 

ここは何処


「小春日和ですねえ」
「この前もそんなこと、言ってましたが」
「晴れて暖かい日しか、ここには来ないからです」
「ああ、そうでしたね」
「あなたは雨でも寒くても、毎日ここに来ているのでしょ」
「はい、日課ですので」
「私は今なら、小春日和の時だけ、これからまた寒くなりますので、暖かい日も少なくなるでしょう。しかし、晴れて少しでも暖かければ、来ますがね。寒いといって部屋の中でじっとしていると飽きますので」
「私も、それです。毎日でないとだめなんです。逆に何日も来ないと、気が狂いそうになります」
「そんな大袈裟な」
「そうですね、ここは吸血鬼の餌場じゃない。血飲み場じゃないのでね」
「怖いこと、言いますねえ。たとえたとえ話でも、凄いたとえですよ」
「ああ、一寸言い過ぎました。気は狂いませんが、気が塞ぎます。寒いときはただでさえ塞ぎ気味。あなたは天気がよくないときは、ずっと家にいるのですか」
「雨戸を閉めて、真っ暗にして」
「あなたの方が吸血鬼じゃないですか」
「冗談ですね。お返しです。天気が悪い日でも出掛けますよ。ここじゃないですが、用事がそれなりにあるので、出掛けます」
「いいですねえ。私は出掛けるような用事がない。だからここへ来る程度です」
「買い物などはどうされてます」
「ここに来たとき、ついでに寄ります。ここ一本で外出の全てが釣れます」
「釣りですか、芋ずる式に用事が片付くのですね」
「まあ、そうです」
「じゃ、ここには用事も兼ねて来ておられるわけだ。郵便局へ寄ったついでとか」
「用事はおまけです」
「しかし、ここはいいですねえ」
「はい、私も気に入っています」
「私も天気が悪くても来たいのですがね。散歩がてらに、このあたりまで来るのが目的でして、ここへ来るのが実は目的じゃない。行き帰りの沿道がいいのです。でも、天気がいい日に限られるんです」
「そうなんですか、ここが目的じゃないと」
「それにたまに来ないと、常連から外れます。たまには顔を出さないとね」
「しかし、昨日も小春日和で天気もよかったですよ。あなた、来なかった」
「体調が悪かったので」
「それは大変だ。で、今日は回復したと」
「そうです」
「しかし、ここは何処なんでしょうねえ」
「そうですね。何処なんでしょ」
「はい」
 
   了


2021年11月21日

 

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