小説 川崎サイト

 

空虚


 ポッカリ、何かが空いたような感じで、何もない。それはすぐに戻ったのだが、時間が止まったような感じで、映像も静止画になった。
 間が空く。いつもは何かが上映されているようなもの。時間もそれで経過し、時の流れを感じる。このとき、今、というのが把握できるのだが、それがない状態。
 伏見は何度かそんなことがあったような気がする。驚きすぎて、時間も映像も止まったような。
 しかし、その日は、そんな驚きで、息をするのも忘れるようことはおこなっていない。
 ただ、一段落し、次のことをやろうとした矢先だ。別にぼんやりと時を過ごしていたわけではない。
 間が空いたというか、間が抜けたというか、言いようのない空っぽさを感じた。考えが停止し、動きが止まる。
 間が抜けたのではなく、伏見自身が抜けた。
「伏見君、それは悟りの境地だよ」
「いや、ぼんやりしていただけだよ。一段落付いたので、ほっとしたんだろうなあ」
「それで、自身が消えた」
「一瞬だよ」
「恍惚状態だ」
「楽しくも気持ちよくもなかったよ。それこそ何もないんだ」
「無の境地、空の境地だよ」
「一応あったけど」
「一応意識はあったんだ」
「あった」
「うとっとしなかった」
「さあ、眠気はどうかなあ、やっと終わったので、気が抜けたのかもしれない」
「その気が、伏見君自身なんだ。その伏見君が抜けたんだよ」
「じゃ、腑抜けか」
「腑抜けでもガワがあるだろ」
「ガワ?」
「袋だよ。伏見君の身体」
「ああ、その意味か。しかし、何だったのだろう」
「それは一瞬だった?」
「うん、すぐに気付いた。だから、すぐに戻ったけど、自分が抜けた状態って、あのことかなあと思ったよ」
「それは再現できる?」
「できない」
「だろうねえ」
「それで、目の前のものは見えていたかい」
「忘れたけど、見えていたと思う。真っ黒でも真っ白でもなかった」
「あ、そう」
「で、どういうことなのか、分かる? 君はその方面に詳しいから、聞きに来たんだ」
「あのねえ」
「何」
「そんなこと、誰にでもたまにあるんだ。しかし、気付いていないだけ。たまにぼけっとしているときがあるだろ。あれだよ。ぼんやり君、恍惚君だよ」
「じゃ、大丈夫だね。妙な世界に入り込むんじゃないかと心配してたんだ」
「そういうのは一瞬で、すぐに覚める。ハタとね」
「はたと気付いた、というやつか」
「そうだよ」
「でも意識が消えたようになり、一寸怖かった。それは後で考えての話だけど」
「意識なんて、毎晩消えているじゃないか」
「ああ、そうだね」
 
   了


2021年11月28日

 

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