小説 川崎サイト

 

夢のふふふ

川崎ゆきお



 先に夢がないことが分かった時田は覚悟した。夢に向かわないことを決めただけの話だが…。
「夢、そんなもの俺なんて考えたことないよ」
 時田の友人秋山が言う。
「将来の夢とか、学校で聞かれなかった」
 二人ともその将来になっていた。
「聞かれたけど」
「どう答えた」
「適当に答えたよ」
「じゃ、その頃から夢がなかったのかな」
「夢なんて実現しないだろ。だから、夢なんだ。まあ、思うのはいいけど遊びだね」
「夢を見るのは遊びなのかな?」
「実用性がないからね」
「じゃ、将来何になりたいとかは?」
「なれるものって決まってるでしょ。なるようにしかならないさ」
「夢のない暮らしをやっていたんだなあ」
「知ってるくせに」
「僕は夢を諦めた」
「今頃まだそんなこと言ってるのか。何を考えてたんだ」
「いろいろだけど、どれも実現しそうにない」
「そうだろ」
「結局、夢とは関係のないことをやっていた」
「それで普通だよ」
「じゃあ、普通に戻ったのか?」
「やっと悟りを得たんだ。おめでとう」
「祝福か」
「夢を見ないことが夢と述べるような小学生がいたらいいのになあ」
「安く上がると思うけど」
「君の夢は金がかかったんだ。今まで使ってきた金を貯金すれば、ひと財産あるぞ」
「金だけじゃない。時間もだ」
「それで幸せな時を過ごせたんだろ」
「どれもこれも最初のうちだけだ。面白かったのは初歩レベルの時だけかな」
「そういうのをもう諦めたわけか」
「ああ、夢をな」
「夢がなくても生きていけるさ。君の場合、どの夢も毒だったんだよ」
「毒か」
「夢を見る自由があるだけましだよ。まあ、夢はあっても実現できないから、欲求不満のお釣りがくる。それが溜まってまた次の夢に走る。君のパターンはそんな感じだった」
「よく見ているなあ」
「今度は何をやるのか楽しみだったけど、そうか、もうやめるか」
「だから、そのサイクルから抜け出そうと決心したんだ」
「そうそう、現実では果たせないからね」
「夢は夢の中で果たすんだ」
「何だ、それは」
「ふふふ」
 
   了


2007年10月08日

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