小説 川崎サイト

 

白崎本通り商店街


 白崎駅の改札を抜けるとその昔、繁盛したような駅前商店街がある。まるで商店付属の駅のように。婦人用の安っぽい洋服の数メートル先に改札がある。横はお好み焼き屋だが、焼きそばにかけたソースが鉄板に当たり、その匂いが伝わってくる。間口は狭いが明け放れており、粗末な丸椅子が見える。ここで食べるよりも、持ち帰る人が多いのかもしれない。長いテーブルが一つあるだけ。値段は安く、駄菓子屋に近い。そこが一等地。
 洋服屋と駄菓子屋の間に白崎本通り商店街が続いているが、少し踏み込むと、シャッターが多くなり、開いているのか、開いていないのか分からない店が多い。
 布団屋は開いており、店の前に蒲団が積まれている。買いやすいシーツ類やカーバー、タオルに毛布、膝掛けや座布団が目立つところにあり、枕がこの店の名物で、オーダーメードで作ってくれる。
 砂川はここに来るのは久しぶり。一度取材で来ている。もう昔の話なので、本当に久しぶり。ここに来る気になったのは懐かしい風景に接したかったため。
 以前に見て回ったので大凡のことは分かっており、商店街を含む白崎の町は意外と狭く、すぐに普通の住宅地や町工場になる。
 本通りとなっているので、別の通りもある。増設、延長と全盛期のものだろう。
 数年の時間の経過、それがここではないように見えるが、そうはいかないだろう。以前よりも閉まっている店が多い。ただ、人は結構通っている。
 スーパーではなく、ここに買いに来る常連客がいるようだ。八百屋もあるし、鮮魚や、肉屋もある。
 靴屋の隣には帽子屋がある。これは決まりだ。それが守られているのだが、帽子屋が危なそう。靴屋は例によって閉店セールを年中やっている。そのうち本当に閉めないといけなくなりそうだが。
 本通りの枝道、道幅が狭くなるが、白崎市場のアーケード。残っているのは雑貨屋と豆腐屋。豆腐屋は売りに行くらしく。また宅配もしているらしい。これは店の前の貼り紙で分かる。
 雑貨屋の店先には、もうこんなものなど売っていないだろうと思えるようなものが並んでいる。敢えてそういうのを表に出している。殆ど骨董品屋か古道具屋だが、安いので、骨董として買っても悪くはない。だがいずれも未使用の新品。
 たとえば火鉢など、もう使う家庭はないだろう。その付属品などが、この店では揃っている。重そうな火箸とか。
 鉄の箸だ。ご飯は食べられない。茶碗が割れるだろう。
 この白崎はまだ死んでいないが建物は古い。いつまでもあるとは思えないが、駅前開発などは、この駅はしないと思われる。だから生き延びている。
 砂川は久しぶりにこの町を歩き、一寸した安堵感を得て、駅に戻った。
 
   了
 

   

 

 


2022年1月25日

 

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