小説 川崎サイト

 

希望薬


 先に良いことがあると、それが希望となる。希望の作用は少しある。
 気分の問題だろう。希望していたことが実現しそうだと分かった時点が一番よかったりする。その希望通りのものを見たり触れたりと、実体験するよりも、その手前の方がいい。
 希望が満たされると、もう希望のネタ、タネが減るので、別物を期待したり、発見したり、探したりする。
 また、勝手にやって来るものがある。春の訪れなどがそうだ。季節の移り変わりは無料で、望んでも望んでいなくても来る。ただ、実際に来てみると、それほどでもなかったりする。寒かったのが暖かくなったので、いいのだが、暖かさがやがて暑さに変わる。
 予想上、そうなって欲しいが、ならない場合もあるような事柄で、いい感じで、そうなりそうだと分かると、元気が出る。希望の薬だ。希望薬。
 これは小さな事でもいい。どうでもいい事でもいい。役立たない事でもいい。そして、ささやかであればあるほど穏やか。
 大きな願いなどは扱いが難しい。重いためだ。叶っても落としそうなほどだったり、大きすぎてドアに入らなかったり、また、持てなかったりとかもあり、ネタは小さいほど始末がいい。
 希望は勝手に来ることが多いが、望んでいないと、来ても分からないし、また知らぬ顔のままだろう。だから、望むだけのものがこちらになければ、何ともならない。所謂受け皿。
 希望の中には欲得しいこともある。だが欲がなければ人は生きていけない。食欲がなければもう駄目だろう。だから大欲ではなく、ささやかな欲がいい。
 欲を満たすと、次の欲へと行く。これは際限がないのだが、そうそう希望通りにはいかないので、際限がなくてもこなせなかったりするので、ある程度の限度があるだろう。
 それに受け皿の大きさを超えるものは受け取れない。こぼしてしまう。
 小さな希望、そういうものを多く抱いていると、皿の数が多いので、何処かで運良く当たるかもしれない。
 小さな希望でもそれを果たせれば、大きな希望を果たした並みの心良さがある。希望の大小は関係がない。叶うことが大事で、叶う瞬間の刺激が良いのだろう。
 小さな希望でも、それが果たせることが分かった瞬間、全ての道が開けたような気になる。
 また、自分では何ともならないこと、天気などもそうだし、人の動きもそうだが、それが希望通りに動いてくれたとき、自分の手柄ではないものの、ここでも道がスーと開けたような気になり、少しの間は気分が良い。
 それだけのことだが。
 
   了


2022年2月1日

 

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