小説 川崎サイト

 

地下神社


 世の中には濃いことをする人がいる。吉田山村と名乗る、簡単な名で分かりやすいのだが、ややこしいことをする人。
 神秘家といってもいいのだが、神主なので、元々が神秘的なことをやっているので、縁が深いのだろう。ただ、神秘的といっても、決まり事。神事なので、世の中にある既成のもの。ただ、神事から離れた神秘事は違う。
 といって神道の研究家ではない。この吉田山村から妖怪博士は招待を受けた。
 前回、妖怪のいる廃村の廃寺へ行ったばかりなので、また遠出しないといけないし、それよりも神社が続く。しかも神秘家として雑誌などでエッセイのようなものを連載していたことのある人。
 妖怪博士と同じ雑誌だが、会ったことはない。ただバックナンバーで、それを読んだことがある。
 妖怪博士は、いつもの担当編集者に問い合わせると、そんな話は入っていないという。直接、妖怪博士にハガキを投げ込んだのだろう。当然郵便で。
 妖怪博士の玄関口まで来ていたのなら、そんなハガキなど入れる必要はない。分かりきった話だが。
 担当編集者も吉田山村は知っているが、担当ではない。まだ入社していなかった。
「どうすればいいのかな」
「さあ、プライベートでしょ。博士が決めて下さい」
「神社からの招待状。そんな用はないはずだがな」
「何か見せたいものでもあるのでしょ。個人的に」
「君も取材で来ないか」
「吉田山村は神社に纏わるエッセイを書いていただけの人です。ただ、少しおかしなことを言ってましたが」
「そうじゃなあ」
「まあ、うちの雑誌に合わせて、興味を引くような嘘も混じっていたのでしょう」
「うむ、少し変わったことを書く人だったが、神々のルーツに関しての話は興味深い」
「どうします。行ってみますか。招待を受けたのですから、これは行くべきですよ」
「君はどうだ」
「僕は受けてませんから」
「またややこしい神社などに行き、ややこしい目に遭うのはいやだが、まあ、行ってみるか。春先で外に出たくなったしな」
「はい、何があったのか、土産話、楽しみにしています」
 妖怪博士は旅立った。
 
 戻ってきた妖怪博士は二三日寝込んでいた。ショックなもの、ショックな出来事と遭遇したわけではなく、たまたま風邪を引いたのだ。
 担当編集者が土産をもらいに来た。土産話だが、これは大したことはなかったが、趣味がいいのか悪いのか、よく分からない。
 吉田さんの神社は、やまぎわにある、普通の村の神社。ただし基地は非常に広い。昔はそこにお寺を建てたらしい。神社に寺、あることだ。
 異質なものというわけではないが、吉田山村が新しく建てた神社は変わりすぎていた。館野ではなく、掘ったのだ。だから地下神社。やり放題だ。
 防空壕程度のものだが、地下倉庫とも言える。つまり神社といっているが、社とは言えないだろう。
 そこにおびただしい数の神像が並んでいる。レプリカも多いが、人間の神様はいないようで、首から上が胴部釣ったりする。
 山の神は山が神様だ。雷の神様は雷という現象が神様。褌姿の鬼が太鼓を叩いているわけでもないし、風神も空気の袋から風を送っているわけではない。
 しかし、吉田山村は具体的な形が欲しいようだ。もっと素朴な自然神の。
 それで、それに近いものを集めているのだが、これは、無化から神社野球ケに伝わる神像など、打ってもらうわけには行かない。
 だから、本物ではなく、妖怪の木乃伊を作るように、
 カエルが羽織袴で座っている像がある。神像ではないかもしれないが、気に入ったものを集めた結果を妖怪博士など、一部の人に披露したということだった。
 流石に、そういう洞窟のような中に置いてある神像紛いのものは異様だ。
 中には人の顔に似ているものがあるが、抽象度が高い。リアルな顔では有り難みがないのだろう。
 要するに吉田山村はコレクターだったのだ。
 こんな場を作ると、怪しいことが起こりそうなので、妖怪博士は素子心配した。
 と言うのが土産話で、大したことはなかった。
 それよりも風邪がなかなか治らないので、そちらの方が厳しかったようだ。
 
   了


2022年3月15日

 

小説 川崎サイト