小説 川崎サイト

 

謎のビジネスマン


 中年を過ぎたような年齢で、分別臭い顔をしている。決まり事があり、それに従い、それ以外の道へは行かないのだろう。
 スーツ姿で、一寸デザイン性のあるビジネスバッグをぶら下げているが、手提げにもショルダーにもなるが、所謂書類入れなので、それほど分厚くはない。荷物が多いときなどは困るだろう。
 そして決まった時間に駅のホームに現れ、電車に乗り、終点で降りる。似たような人が多い駅だが、ラッシュ時は過ぎている。
 そして終点で降り、駅ビル内の喫茶店に入り、しばらくそこで座っている。やっていることはスマホを見ているだけで、これはよくある光景。
 たまに電話がかかってきたときは、店から出て、外で対応している。
 そしてその駅から別の路線に乗り、その終点で降りる。既に昼になっているので、ビジネスランチを食べる。
 ただし、日替わりランチは食べない。毎回、同じものを食べたいようだ。
 そして、食後、駅から少し歩いたところにある公園のベンチで座っている。昼食後、そこで休んでいる人がそれなりにいる。
 そこで、ほんの少し座っただけで、そのあと散歩をする。そして駅前に戻り、バスに乗る。
 色々なバスが入り込んでいるのだが、決まって乗るバスは同じ。
 このバスはそれなりに遠くまで行っており、その終点で降りると、郊外の町になる。
 古い商店街などが残っており、そこにある喫茶店に入る。これも毎日決まっている。
 ここでの滞在時間は結構長い。店の人も慣れているのだろう。奥にすっこんでしまうこともある。客は少ない。
 郊外で下りたのだが、その近くにローカルな私鉄の駅があり、それに乗る。
 これも同じような時間帯。
 そして終点で降り、郊外によくあるホームセンターを見学する。別にこれといったものは買わない。
 その前にバス停があり、別の鉄道会社の大きな駅まで出る。
 公園で休憩していたときの駅だ。そこからまた終点まで行くのだが、これは戻ることになる。
 あのビジネスバッグ、一度も開けたことはない。
 しかし、バスや電車の中ではスマホを始終見ている。それで事足りるのだろう。
 夕方前、最初の駅に戻る。
 そして、改札を抜けた瞬間、消える。
 
   了



2022年3月28日

 

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