小説 川崎サイト

 

妖怪の剥製


「先祖の持山なのですが、元の持ち主が売ったのを、私の先祖が買ったらしいのです。その山の中腹に襞がありましてね。うねうねとした山腹です。そこに古墳らしきものがあるので、掘り返したらしいのです。もし盗掘にあっていなければ、中にいいものが入っているかもしれないとね」
「これが、そこから出てきたものなのですかな」
「そうです。博士だけにお見せします。誰かにそのことを伝えたかったのです。公表はしないで下さい。そういうことがあったことを知ってもらうだけでいいのです。これは私の息子も孫も知っておりますが、まだ曾孫には伝えておりませんし、見せておりません」
「息子さんはどう言われていました」
「見なかったことにすると」
「お孫さんは」
「驚いていただけですが、やはり関わるとまずいと思ったのか、父親と同じように、そのままにしておくと」
「では、世に出ることはありませんねえ」
「そうです。しかし、少しは漏らしたい」
「見てもよろしいですかな」
「どうぞ、博士」
 依頼者は油紙や布に何重にも包まれたものを外し、そのものを見せた。
「子供ですか。それより形が」
「妖怪だと思います」
「妖怪の剥製だと思いたいわけですね。しかし、これは明らかにアレですよ」
「先祖の持山じゃありません。買ったものです。しかし、あの古墳などができた時代、私の先祖はまだここに住んでいなかったはずです。家系図では室町時代後期から始まりますから。それ以前の古墳時代あたりか、もう少し新しいかは分かりませんが、大昔の人が埋葬したのでしょう」
「毛は残っていないようですな」
「生えていなかったようです」
「頭が長い」
「はい」
「大きな目玉。かなりの窪みです」
「だから、妖怪なのです」
「でも、これはアレですよ」
「その古墳、先祖がこれを取り出し、あとは埋めました。今はどのあたりにあったのかは分からない程です。忘れようとしたのかもしれません。しかし、これだけは剥製にして大切に保存していた。祟りが怖かったのかもしれません。大変なものが埋葬されていたのですから」
「私は専門家ではありませんので、これが本物か、作り物かの判断は下せませんが、そんな大昔に、アレと同じ形のものを作ったとは考えられません」
「動物を組み合わせて作ったとしても、形は意外とシンプルです。また、そんな細工をする人と接触があったは思えません。代々のご先祖の中には見ないで、そのまま跡取りに言い伝えただけの場合もあるとか」
「代々の家長を調べるのは大変でしょう」
「私の祖父も、見ていません。そういうものがあると言うだけしか知っていなかったとか。まだ屋敷を建て替えたりしましたので、隠し場所は変わっていましたが」
「それでどうなされます」
「まだ、早いかと思います」
「そうですなあ。今、公表すれば、騒がしくなります。それに偽物だ、作り物だということに巻き込まれるはずです」
「公表はしませんが、少し、触れて欲しいのです。ある旧家に、そういうものがあったらしい程度に軽く」
「いや、これは触れない方がいいと思いますよ。私も見なかったことにしておきますので」
「やはり、この妖怪、アレなんでしょうねえ」
「そうです。アレです」
 妖怪博士はうたた寝から覚めた。そんな夢を見ていたようだ。
 
   了


 


2022年4月7日

 

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