小説 川崎サイト

 

福丸町の怪


 舟橋はあの町だけは行ってはいけないと聞いていたのだが、そう言われると、何があるのだろうかと、好奇心が走り、行って見たくなるもの。
 舟橋は普通の人だが、神秘的なことにも興味があり、そこが飛び出すと普通の人ではなくなるのだが、不思議さを不思議と感じるだけで、それ以上の行為はしないので、舟橋が神秘家であることはバレないでいる。
 それに正体など分かっても、つまらないことだったりしそうなので、出来るだけ解明しないようにしている。だから、詰めも弱い。
 福丸町。それが行ってはいけないとされる町。駅からも遠く、バスがある程度。
 ちょっと古びた住宅地で、普通の人にとって用事がないような場所。寺社でもあれば寄って見ようかと思うが、古い店屋がポツンポツンとあるだけ。地元の人向けの日用品などが売られている程度。
 大きな町に取り囲まれており、福丸の人達も、買い物はそちらまで行くのだろう。
 だから、通りがかりの人が福丸町に来るようなことはない。通り道ならいいのだが。
 舟橋は最寄り駅からバスで、福丸町に入った。バス道は大きな道ではない。反対側にもバス停があるが、屋根とかベンチとかはない。
 帰るときは、そっちのバス停から乗ればいいのだなと確認するつもりで見ていた。一人だけ待っている人がいる。
 町を貫いているのは、どうも、このバス道だけで、あとは碁盤のように枝道や脇道。その道沿いに家が並んでおり、申し訳程度の児童公園。
 休憩するには、丁度いいので、舟橋は公園内に入ろうとしたとき、先ほどまでいた人なのか、すっと立ち去った。
 飛んだように見える。カラスのように。
 見覚えがある。先ほどバス停で待っていた人に似ている。黒ずくめの服装。それが目立った。
 児童公園なのだが、使われていないのかもしれない。ブランコはさび付き、軽く柵が施され、使えないようにしている。鉄棒もサビだらけ。
 先ほどまでいた人が座っていたベンチも、板が剥がれ、まともに座れないほど。
 よく見ると、公園の入口に立入禁止となっていたようで、これはあとで分かった。きっと何々をしてはいけないとかを箇条書きされたパネルだろうと思っていたのだ。
 つまり、入ってはいけない児童公園に入り込んでいたことになるが、柵がないので、分からなかったのだろう。
 そのあと、そのあたりの家々を見ながら、ジグザクに町を見学した。少し古い家だが舟橋が子供の頃に見た家に近い。当時はモダンだったはず。
 その住宅地の中に店屋がある。たばこの文字が見える。切手と塩と書かれた看板もあり、また、郵便ポストもあるが、これは今風だ。
 そのポストの前に、また黒い影。
 バス停でも見た。公園でも見た。
 舟橋が近付くと、すっと立ち去り、角に曲がり込んで消えた。
 これなのか。田丸町に行ってはいけないという事情とは。
 しかし、見張られているわけではない。だが、バスから降りてくるところは見られていたはず。公園では先に来ていたので、尾行ではないだろう。
 すっと見通しのよい道に出た。左右に行儀よく家々が並び、電柱が道の奥まで透視図法式に走っている。
 その奥。また来た。
 黒い服装の人が小さく見える。まだ遠いのだ。最初それは何かよく分からなかった。しかし、横に四人並んでいる。例の黒い人だ。四人もいるのだ。
 これは駄目だろうと思い、今なら遠いので、さっと引き返した。
 しかし、四つ角に出たとき、東西南北を見ると、道の奥にやはり黒いものがある。四人どころではない。
 舟橋は怖くなり、さっと枝道に入る。その先には黒いものはなかったが、そのうち、じわじわと湧き出した。最初は一人だったのだが、二人三人と横に並んだ。
 舟橋は慌てて、別の通りに入り、そのまま人がいそうな場所へと逃げた。あのバス道には流石に車が通っているし、人も少ないが、いる。自転車も。
 そして目の前を見ると、バス停。帰るときのバス停だ。
 しかし、バス道の両側から黒いものがまた現れ、徐々にこちらに迫ってきている。
 しかし、舟橋がバスを待っているのが分かったためか、黒いものは横道に入った。
 バスが来た。
 舟橋は無事に乗ることが出来、福丸町から脱出した。
 
   了

 


2022年4月27日

 

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