小説 川崎サイト

 

意思の伝達

川崎ゆきお



「コミュニケーション不足じゃないのか?」
「下手にコミュニケーションすると面倒に巻き込まれますよ」
「じゃあ、上手にやればいいじゃないか」
「余計な話し合いはしないほうがいいんです」
「じゃあ、コミュニケーション拒否か」
「はい、そのほうが無難かと」
「不都合が起きるのは話し合いが足りないからじゃないの?」
「ですから、余計な話をやると面倒なことに」
「何が面倒なの?」
「こちらの真意がばれます」
「ばれないように話せばいいじゃないか」
「それはコミュニケーションでしょうか」
「何言ってるの? 本音で語りましょうじゃ、何も話せないだろ。当たり障りのないところで、仲良くすればいいんだよ。そうすりゃ気の利いたこともしてもらえるんだ」
「でも、それだと、こちらもお返ししなくてはいけなくなります」
「最低限のお返しはいいだろ」
「今の関係のほうが無難かと思います」
「だが、先方が気を利かしてくれないから、今日のようにトラブるんだ。ちょっとした配慮をやってもらえなかったばかりに、ひどい目にあったんだろ」
「そうですが」
「期待していた配慮がなされていなかったんだよ」
「では、仲良くしてもいいのですか」
「こっそりとね」
「でも、先方と仲良くするのはマイナスイメージかと」
「だから、内々にだ」
「それが、先方の手なんですよ」
「どういう意味だ」
「仲良くすれば、付け込んできます。それが目的なんですよ。罠です。トラップです」
「前任者はどうしていた?」
「僕と同じやり方です」
「だから、トラブルがなくならないんだ。信頼関係ができていないからだ」
「先輩は先方の罠に気づき、関係改善をやめたのです。それが先方が待ち構えている手ですからね」
「じゃあ、リスクを背負ったまま行くのか」
「はい、このリスクで済むのなら、安いものです」
 
   了


2007年10月22日

小説 川崎サイト