小説 川崎サイト

 

気楽


 中村という仕事人がいる。単に人に使われ、働いている人。仕事をしている人だが、一人でコツコツとやっていく仕事ではなく、人の中でやる仕事。中村は補佐とか助手とかアシスタントとか秘書とか、そういったことをやっている。メインではない。
 ただ、メインの人も、その上の人の命で動いているので、似たようなものだが。
 中村の同僚は多くいる。この組織の中では一番多い。だから、その中では目立たない。その中でも特に中村は目立たない。存在感が薄い。
 これといった特徴がなく、中村を連れて行けば、こういうメリットがあるとかはない。頭数の一つ。また、横にいるだけで、何もしていないこともある。
 ただ、一人で行くのと二人とでは違うので、そんなとき、中村を連れて行ったり、同席させたりしているのだが、これが結構人気がある。
 その人気は本来の人気ではなく、誰でもいいが誰かを、というとき、中村を思い出す人が多い。それで出番が多い。
 特色らしい特色、また得意なこともなく、それなりのことは出来るが、それほどレベルは高くはない。将来、そちらを伸ばせば、一人前になれるようなこともないはず。
 何処にでもいそうなありふれた人材。しかし、その組織では意外と少ないのだ。特徴とか、個性とか、そちらを発揮させようとする人の方が多い。目立つように。
 しかし、使う側としては、面倒臭いのだ。逆に張り切りすぎる部下は扱いにくい。気を遣ったりする。
 その点、中村なら気を遣わなくてもいい。言われたことはそれなりにこなしてくれるが、最低限に近い。
 言ったことの倍ほどの働きをしてくれた、というようなことはない。少し足りないときがあるほど。これが使いやすいのだ。気兼ねなく使える。
 それに補佐とか、助手とかに任せる仕事はそれほど大したことではないので、多少足りなくても、大きな問題にはならない。それにそこまでは任せないし。
 ある日、中村のそういう面について気付いた人がいる。なぜ使いやすいのか。なぜ同行や同席、またちょっとした手伝いを頼みやすいのかと。
 中村よりもよくできる人の方が多い。そこが嫌なのかもしれない。場合によってはメインよりもサブの方が凄かったりすると、これは使いたくないだろう。その点、中村なら安心。
 中村は地味で、口数も少ない。愛想や世辞なども言わない。任されたことを素直に淡々とこなす。
 平凡なもので、普通すぎるほど普通だが、意外とその組織にはいないのだ。
 そして、今日も中村は忙しい。サブが中村だと気楽なので使い勝手がいいので。
 
   了

 





2022年5月13日

 

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