小説 川崎サイト

 

西野江沢峠の怪


 野江沢峠の西に、もう一つ峠がある。峠の名はない。敢えて言えば西野江沢峠。
 山にかかる道が途中で二つに分かれるが、西側は廃道に近いほど荒れており、人が通った形跡が殆どない。轍の跡もない。地道は少し見えているが、草で覆われ、苔が生えている。
 野江山を含む低い連山が続いており、山越えとなるのだが、中腹あたりを越える。その越え口が野枝山の東西にある。低くて浅い山だ。
 その峠の下は沢で、お隣の山とで挟まれている。人も通れるが、流れの強い川があり、狭い場所なので、ふさわしくない。水が出ると、道が消えてしまう。それに馬や荷駄なども通れない。
 それで、少し登らないといけないが、その上に道を作り、沢の上を通る。野江沢峠は上り下りの中間。
 しかし、この野江越をする人は少なく、かなり遠いが、横たわっている連山の大きな切れ目から山向こうへ行くようになった。こちらが本街道。上り下りは少なく、道幅も広いので、遠回りになるが、ここを行く人が殆ど。
 だから、野江沢峠を越える人は希なのに、もう一つある西野江沢道など、誰ももう通らなくても当然だろう。
 野江沢峠には掘っ立て小屋があり、これが茶店。そこに人は住んでいない。だから、開いていない日もある。山仕事の家族が片手間でやっている。
 同じように西野江沢峠にも、そういう茶店があったのだが、廃屋になっている。
 この西野江沢峠、何かが出るらしく、里の悪童が化け物退治に出掛けるのが恒例になっている。
 そのため、この峠道を通るのは、子供達程度、ということだ。
 ただし、化け物の気配を感じたとか、誰かがいるとかの噂はある。実際に見た子もいる。
 これは、峠の向こう側の村の子だろう。同じようなことをしているのだ。
 それで化け物のような扮装で、峠で向こう側の子供が来るのを待っていたりする。
 もし、普通の旅人が、廃道に近い西野江沢峠道に迷い込めば、本当にバケモノがいるように見えるだろう。
 
   了
 




2022年5月23日

 

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