小説 川崎サイト

 

司令塔


 夕方前の散歩に出た岩倉は、少し遅いような気がする。しかし、初夏の陽射しがきつく、もう少し遅い方が凌ぎやすい。
 いつもの時間なら真っ昼間の暑さがそのまま来ているだろう。そのため、ちょっと遅くなったが、悪くはない。
 遅くなった原因は起きるのが少し遅れたことと、午前中の日程の中に、余分なものが入ったことだろうか。実際には余分ではなく、必要なことなのだが。
 これだけで遅くなってもおかしくない。遅起きと増えた用事。
 しかし、それにしては計算が合わない。その程度のことでは、こんなに遅くなるわけがない。
 それで岩倉が思い付いたのは、暑さ。この影響で、動きが鈍くなっている。怠慢。怠けているわけではないが、だらっとした動き。だから何をするにも遅い。
 歩くのも遅いし、自転車のスピードも遅い。鈍化。動きが鈍っている。しかし、弱っているわけではない。少し力を入れればパワーは出る。それでは暑苦しいので、スローペースにしているのだ。
 誰が。
 ん、と岩倉は詰まった。スローペースになっているのは動きが遅いことに気付いたときだ。誰が決めたのだ。これは体が先にやっていたようだ。岩倉の指令前に。だから事後承諾。
 そういうことはたまにあるし、聞く話だ。体が先に動いていたとか。ただ、単なる反射ではない。
 ちょっと判断しないといけないことを先に体が動いていたり、その行動をやろうと動き出していたりする。
 誰の命令で。
 別に他人にコントロールされているわけではなく、勝手に岩倉がやり出したことでも、やはり岩倉がやっていることに変わりはない。
 決まったことを繰り返す場合、いちいち確認とか、判断などしないで、さっさとやってしまえる。順番があれば、考えなくても出来る。それに近いのだろう。
 そんなことよりも、思っている以上に今日の夕方の散歩は遅くなっている。色々な理由を集めると、遅い分の辻褄が合い、計算も合う。
 何かに邪魔されて遅くなったわけではない。人の介入はない。全部岩倉がやったこと。それで納得がいったので、その遅れを受け入れた。大層な話だ。これで凄い結果を招いたりはしない。ちょっと遅くなっているだけ。
 それで、散歩コースをちょっとだけ省略した。
 これは岩倉が決めたことなのかどうかは分からない。それにより遅れが取り戻せるので、そう動いたのだろう。
 そう命じたのは、岩倉全体。気分が動かしたのかもしれない。
 
   了



2022年5月28日

 

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