小説 川崎サイト

 

瓢箪神社の駒


 駒井神社、瓢箪神社ともいう。旧駒井村、今は駒井町。そこにお参りに来る人がときたまいる。もうご存じのように、瓢箪から駒が出るの、あれだろう。
 意外な物が飛び出すとされ、それが良い物か悪い物かは分からないとされているが、駒、つまり馬が出るのだから、悪いものではなさそうだが、これはたとえ。鹿でもいいし、蛇でもいい。ただ、蛇の小さいのは瓢箪から出ても意外性は低いかもしれない。そんなところから出るはずのないものが飛び出るということだろう。
 それを期待して、駒井神社にお参りに来る人がいるのだが、何が出て欲しいのかは偶然で、定まった目的はないようだ。それが分からないので、適当に出るもの、偶然出たものを受け取るのだが、滅多に瓢箪からは駒は出ない。
 駒井神社には瓢箪が数多くぶら下がっている。瓢箪が多い地域だったのだろうか。今なら栽培しないと市街地で瓢箪など自生しないだろう。
 駒井町のバス停。そこから降りてきた二人。知り合いではないが、同じ停留所で降りたことになる。身なり雰囲気は似ている。これで、意味が通じるかどうかは分からないが、それとなく、分かったようだ。
 こんな何でもないところで降りたのだから、町の人かもしれないが、雰囲気で分かる。里山散策や、町歩きを楽しむ、小さな冒険家だろう。
「お宅もですか」
「君もかね」
「そうです」
 これで正体が分かった。駒井神社へ行くことが。しかし、たったそれだけのことで、分かるものだろうか。
 だが、向かっているのは駒井神社。道も方角も合っている。
「偶然ですか」
「そうです。偶然との遭遇。だから、偶然というのだがね、そういうものに期待しておる」
「運頼り」
「うむ」
「しかし、おみくじが木の箱じゃなく、瓢箪なんでしょう」
「サイコロが入っている」
「博打ですねえ」
「いや、占いだよ。賽の目」
「瓢箪から賽ですね」
「何が飛び出すか、分からん。そこがいいんだ。しかし、出てきたものは通底している。地下水脈で繋がっておるんだ」
「あなた、何歳でした」
「いや、まだ若い。君とそれほど変わらん」
「振られたこと、ありますか」
「一度だけな」
「僕は初めてです」
「小さなサイコロが出る。瓢箪の口はそれほど大きくはないからな」
「そうなんですか」
「その賽の目、数字だな。それを巫女に伝えると、紙をくれる」
「じゃ、おみくじなんですね」
「いや、紙はもの凄い枚数がある。その中から六枚、その場で巫女が無作為に選び取り、出た数字に従い上から選ぶ」
「じゃ、巫女も加わっているわけですね。おみくじのクジ棒ではなく、膨大な紙から六枚抜き取るわけですから。これだけでも紙占いですよ」
「しかもね。そのおみくじの中味の文章、一文字から四文字程度」
「文章になっていないのですね」
「ウマとかシカとか、ムとかイケイケとか、シトシトとか」
「そりゃ、枚数が多くて当然ですねえ」
「あとは、それを受け取った者が、どう解釈するかで、瓢箪から駒が出るのじゃ」
「あなた何歳ですか」
「君と変わらん」
「でも、いいですねえ。駒井神社」
「ほら、見えてきた」
「で、その巫女さんなんですが」
「老婆だよ」
「あ、はい」
 
   了
 


2022年6月4日

 

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